しっぺ返し

柚子咲いて新芽の棘のやはらかき

揚羽が卵を生みに来ている。

傍に寄れば柑橘独特の強い香り。これに吸い寄せられるのだろう。観察してみればそこここに産みつけられた一ミリほどの黄色い卵がついている。
夏になると棘が固くなってうっかり手を伸ばそうものなら痛いしっぺ返しがあるところだが、この時期はまったく恐くない。
今後のためにも柔らかい棘は指でぽきぽき折ることにしよう。

待ったなし

苗床の八十八夜踏み場なく

一日が八十八夜。

農事暦で言うと、遅霜もなくなってものの種蒔く季節到来。
育ててきた夏野菜の苗も天候に恵まれて今年は順調な仕上がり、というよりも早く植えてくれろと言うばかりに生命力があふれている。体調がなんとなくすぐれず体が重いので、この暑さに畑の長時間作業がうっとうしく感じられてなかなか思うように進まない。
あした、あしたと思っている内に明後日はもう立夏。待ったなしである。

おざなり

知らぬ間に十薬匂ふ庭ぞかし

つーんと強い匂いがする。

これは紛れもない十薬の匂い。
種を蒔いたとか、苗を植えたとかまったく身に覚えのないものだ。
隣地に家が建って半日日陰となり、しかも湿り気を帯びがちになったせいだと思う。
それにしても、条件が整えばちゃんと環境に適した種類の生物が生えてくる自然の営みには感心するばかりである。
おざなりのままにしておいた主のせいでもあるのだが。

雨の公園

雨粒のしづる鉄棒若葉冷

時間の経過とともにぐんぐん気温が下がってきた。

連休と言えど雨の公園には人影はみあたらず、遊具はどれもみな淋しそうである。
子供たちがぶら下がる鉄棒には雨粒が垂れるだけ。そこだけが光っている。

便箋

母の手痕の癖思ひ出す春の闇

遠い昔の話しになった。

たまにくる母の手紙は旧仮名遣い。いつも必要なことしか書かない。便箋一枚フルに使われたことはないほど短い。それでも白紙の便箋がかならず一枚ついていた。添え紙は返信のためにとか、本当はもっと書きたいという気持ちを表す意味とか、内容が透けないようにとかの意味があるそうだが、昔の人はみなそうしていたものだ。
そんな古い話を思い出しながら、夜の時が流れてゆく。

甦る

定刻に寝ては目覚めてゴールデンウィーク

連休だからといってふだんと何も変わらない。

ごく平穏な日々の連続である。
天気によって行動パターン、ルーチンに変化はあるものの基本は同じようなものである、
どちらかというと、天気が悪ければやりたいこともできなくなることもあって時間が余りがちで、うたた寝というよりしっかりめの昼寝になる傾向がある。リズムで言えば後者は夜の眠りが浅くなりがちなので避けたいところだが、あまり自分を叱らない方がストレスもなくて大事だと思うので成り行きに任せてはいるが。
秋に蒔いた菊菜の一生をまっとうさせてやりたくて、刈らずにおいたのが薹立ちして花をつけてきた。その名の通り菊そのものの形で感動ものである。同じ種からでもぼかしが入ったもの、色が黄みがかったり橙がかったり、花片の枚数もみんな同じではなく。それぞれが違ってまたいい。仏壇に供えようと何本か剪ってきて、バケツで給水させたところ剪られたときはしんなりとしてきたのが生き生きと甦ってきた。愛しいものである。

微笑ましく

すかんぽを吸へば連れまた手にとりぬ

真夏日とも言われる今日。

夕方になってぞろぞろ散歩に出る人を多く見かけた。
具合いいことに風も出てきてぐんと涼しく感じるようになったのはさいわいだった。
散歩を楽しんでおられた老夫婦が田の周りでなにやら楽しそうにしている。近づくとどうやらスカンポを吸うているらしい。昔を懐かしむかのように語らう姿は微笑ましいものだ。