冬の到来

あすなろの籬づたひの笹子かな

初笹鳴きというのだろうか。

やっと暑い夏が終わったばかりというのに、早々と律儀に鶯が低地に降りてきたようだ。
本格的な冬鳥の季節にはいささか早いこの時期の一番乗りとなった。
古墳と公園の花の広場を隔てる垣根が背の高いヒバで、冬になるといろんな鳥がひそむようにして楽しませてくれる。
垣根の密度が高いので簡単には姿を見つけられないが、少しずつ移動している模様は声の移動で知るしかない。そう、この鳥は簡単には姿をみせてくれない鳥で、たとえ姿を現しても地味な色合いで背景に溶け込むので見分けが難しいのだ。
本物の鶯色とはほとんど灰色と言っていいくらいで、日に当たる角度によってかろうじて緑じみたように見えるだけだ。
来春2月末くらいに初音が聞けるまでしばらくは笹鳴きの季節である。
鶯だって、春の到来が待ち遠しいのに違いない。明日こそ、あしたこそ、と笹鳴くのである。

一足早い冬の到来である、

騙しのトーン

柿紅葉して夕色の広がりぬ

光温度が低いというか。

柿の木全体が紅葉すると空気の色まで変わったような気がする。いわゆる暖かい色で、空気のトーンさえ夕色めいて感じる。
カメラでよくあることだが、ホワイトバランス調整の色温度の調節によって全体のトーンを暖かくすることができるように。
ドラマなどでやたら蒼っぽい雰囲気をだしたり、夕方でもないのに夕方らしい演出をしてみせるのも、このホワイトバランス調整によって人間の目をだましているからなのである。

同時多発災害

曇るものみなかき曇り秋黴雨

即位礼の朝はまさに秋霖と呼んでよさそうな雨。

やがて雨が上がると虹がかかったというから、雨降って地固まる新しい御世への祝福であろう。
この秋は台風の合間が秋雨前線の停滞で、被災地にとっては気が気でならない空模様である。
各地同時被災のケースが増えてきて、ともすれば忘れ去られそうな地域もあるようだが、予算配分を見直してでも機敏な施策が求められる。

共生

増水跡とどめる川に鴨來る

小鴨の群れを久しぶりに見た。

やがてヒドリガモ、マガモなどの群れもやってくると、いよいよ大和川の冬景色として楽しませてくれる。
このたびの台風による被災地の川も同様に冬鳥の便りがあるにちがいない。
われわれ人間だけではなく、あらゆる生きものは地球環境の影響をうけざるをえない。同じ乗り物に乗ったものどうし共生の道を図る責任が人間にはある。

妍を競う

太鼓台郷の自慢の村祭

今年も龍田大社例大祭の季節となった。

朝から在の人たちが町内をぐるりと回遊して、夕方また帰ってきた模様だ。
というのは、打ち鳴らす太鼓で今どこにいるか想像できるからだ。今日は里にお渡りして明日大社に集結するという寸法だ。
地区によっては、たいそう豪勢な太鼓台を引き回しているところもあって、各郷の入れ込み方がまたよく分かる。総じて、商売人が多い地区が贅をこらしていることが多い。
さらに、動員の人員構成からも郷の勢いのようなものを垣間見ることができる。今世紀中にはこれらのなかのどれかが廃れてしまうことさえ頭を過ぎるのは寂しいものだ。

熟読

行秋を古歌に親しむ飛鳥かな

収穫(とりいれ)の音が飛鳥野の各所に響き渡る。

昔とちがって昨今は即日脱穀してしまうので、あっというまに米袋が積み上がる。
それを軽トラの荷台にうずたかく積むと、前部が簡単に浮き上がってしまう。豊作である。
そんな光景を目にしながら、この水曜日、よく晴れて万葉集購読会に行くのもすがすがしい気分に浸る。講師は声が素敵な女性研究員。万葉集の世界では人ぞ知るアイドルである。
今月は第五巻終盤の目玉ともいうべき憶良の「貧窮問答歌」の長歌、短歌各一首(892、893)の熟読で、一時間半があっというまに過ぎてゆく。これから年度後半にかけて憶良の歌がずっと続く予定だ。

伏流水

川端に飯粒沈む秋の水

関西には「川端(かばた、また、かわばた)」と呼ばれる水場が多い。

清冽な伏流水が豊富に得られる土地ならではの風景で、有名なところでは滋賀県高島市針江地区、梅花藻でも知られる彦根市醒ヶ井地区などがある。
針江地区では比良山系の伏流水が各所に湧いて、これを飲料や炊事などの日常用水として巧みに利用されている。伊吹山系の伏流水が豊富な醒ヶ井では鱒の養魚が盛んに行われ、五十年近くも前に遠足で訪れたことが懐かしい。
同じように、関西以外でも鳥海山麓など豊富な湧水があるところでは、集落で共同利用することも見られ、上は飲料、中は炊事、下は洗い物用として利用する暮らしぶりがいまだに守られているところもある。
伏流水というのは水温、水量とも一年を通して変わらず、夏は冷藏庫の、冬は温水器代わりのエコライフを支えるが、水澄む秋は大根や芋を洗っては菜屑が流れたり、畑仕事後の鍬などの泥を落とてもすぐに透明な水に戻ったり、ひときわ趣が深い。
ここ、大和盆地には扇状地でもなく伏流水と呼べる湧水はないが、洞川など山間部に入れば大峯山系からしみだす名水が得られ、それを利用した豆腐などの特産物が知られているが、共同水場という風景は今はもう姿を消したのであろうか。