下野の花

下野草やまとの古墳に咲きにけり

花しょうぶが満開だという馬見丘陵を訪ねた。

馬見丘陵公園の下野草

古墳群のある丘陵地帯を県が整備して立派な公園になっており、四季折々の花が咲くことで訪れるファンは多い。
下野の花は花しょうぶをめでたあと公園内を散策しているときに目に止まったものだ。万葉集に歌はないかと探したが、さすがに国の名を花の名とした歌は見つからなかった。そのかわりに、東歌で下野の国を歌った歌:

下野の三毳(みかも)の山の小楢のす まぐはし児ろは誰が笥(け)か持たむ 作者不詳 巻14-3424

歌の意は「下野の三毳山のコナラの木のようにかわいらしい娘は、だれのお椀を持つのかな(だれと結婚するのかな)」。
なんとも素朴な歌ですね。

ニュースに誘われて

菖蒲田の名札たしかめ巡りけり

菖蒲田の一雨ほしき滾りかな

馬見丘陵公園の菖蒲田

柳生の花しょうぶ園とは比較にならない規模だが、馬見丘陵の花しょうぶも手入れがよくいきとどいている。

馬見丘陵公園一帯は4世紀末から5世紀にかけての古墳が集中しているエリアで、葛城氏など初期大和王権を支えた豪族たちの墓ではないかと思われるが詳しいことは依然謎のままである。いずれにしてもどれも相当な規模の古墳なので有力者の墓であることは間違いないだろう。

散策路もよく整備され近所の人たちのみならず、車でわざわざやってきてウオーキングをしている人も多い。四季折々の花も咲くので、NHKローカルニュースでもたびたび取り上げられ、それにつられてやって来る人も多い。小子もニュースで誘われたくちであった。
ただ、梅雨に入っても雨が降らないせいか田の水量もわずかで、田水は熱い日差しに泡を吹くほどたぎっている。紫陽花とおなじく花しょうぶもやはり雨が似合うのではないだろうか。

甲羅干し

猿沢の池の午鐘や夏柳

もうそこが猿沢の池のはずだと思うあたりで、正午を告げる乾いたような大きな鐘の音が興福寺から聞こえてきた。

猿沢の池

池の周囲にはあまり大きくない若い木だがすっかり葉を伸ばした柳が垂れ、池では亀たちが甲羅干しするのんびりとした昼下がりである。
木陰で涼んでいたら福岡から3日かけてヒッチハイクしてきたという米人の若いカップルと知り合い雑談するうち、あやうく句会前の腹ごしらえの時間が無くなりそうで急いで飯屋を探すことになった。

柳生の名所

花しゃうぶさそふ柳生の写真展

商店街アーケードの柳生写真展を見ていた。

これは奈良市広報コーナーで、訪れる人に向かってときどきの耳より情報を発信しているようだ。
柳生といえば誰でも剣豪の里のイメージを思い浮かべるだろうが、実は今頃が満開の「柳生花しょうぶ園」があることでも知られている。昭和60年に開園されたというから30年近い歴史があり、今では460種約80万株あるそうで規模としても有数だ。

小学生の遠足定番「あやめ池遊園地」が10年ほど前に閉鎖されたこともあって、この辺りでは数少ないあやめの名所なんだろうな。

外国人ツーリスト

サンダルがふみいる老舗土産店

この時期欧米人観光客のほとんどがサンダル履きだ。

朝開店したばかりの土産店、しかもいかにも老舗然とした店で私なら少々構えて入るところだが、ノースリーブ、ショートパンツ、サンダル履きのカップルは何事もないように堂々と入ってゆく。
店の方でも慣れたもので何事も無いように受け入れているようだ。実際、これで店の品位が傷つくわけではないだろうし、何より、買いそうな客かそうでないかの見極めは商売柄お手のものであるはずで、そのへんの呼吸は十分心得ているようにもみえるのだが。

火もまた涼し

薄衣の自転車こぎゆく寺の町

奈良町の坂道をごく涼しげに自転車を漕いで行くひとがいる。

薄物の法衣を来た壮年の僧侶で、昼の法事にでも呼ばれているのだろうか。
炎天下をものともせず颯爽とさりゆく姿は、さすがに修行した人にちがいなく、火もまた涼しの境地なんだろうか。

土間を吹き抜ける風

床几台土間に列ねて夏座敷

庫裡の間に床几台おき夏座敷

小子坊とは僧房の一つで、大坊が僧侶が居住するのにたいし小子坊はその従者が居住していた。大寺院にみられる僧房形式だという。

元興寺・小子坊の土間

元興寺・小子坊の庫裡の土間には、夏座布団をのせた床几台が置かれ小休止できるようになっている。土間の南北が開け放たれているので心地よい風が吹きぬけるうえ、ここに腰掛けて庭の方を眺めると新緑の光が目にまぶしく、まるで夏座敷といった風情をかもしだす。