ここでも颪

追い風は信貴山颪歩の早し

散髪しに王寺の街へ。

今日は信貴山からの風に押され、下り坂はまるで転がるごときスピード。いつもより幾分早く着いたのではないか。店の人によると、この風は「信貴山颪」だそうである。
たしかに、王寺の街からみると常に目の前に信貴山がそびえて見えるし、それが北方にあるので冷たい風も信貴山から下りてくると云っていいだろう。

大阪空襲の時はその上空が真っ赤に見えたと云うが。

惜しむ

名跡の 光芒果てり 枇杷の花

十八代中村勘三郎の訃報に驚いた。

意欲的な舞台で歌舞伎の世界で異彩を放っていただけに、歌舞伎ファンならずとも勘三郎を知らない人はいないだろう。家人とも「いつか舞台を見に行きたいね」と話していたのに叶わなくなって非常に残念でならない。

一方、幼年時代からスポットライトを浴びて来た人とはまるで対照的にひっそり咲き始めた花がある。枇杷の花である。

国を開く

待ったなし日本師走の選挙かな

乱立する政党は、日本の政治の混迷を表している。

今度の選挙の争点はいろいろあるが、ポイントは果たして「内向き日本」を打破できるかどうかにかかっているのではないだろうか。我々日本人は誰でも日本は「貿易立国」であることを知っている。経済的にも政治的にも相対的な地位が落ち込んできている日本で、何故「脱TPP」、「反TPP」なんだろうか。これではますます世界に取り残されてしまうだけだ。今こそあえて国を開き、諸外国との交渉をしたたかに乗り越えてこそ活路を見い出すことができるはずだ。
各党とも避難合戦の愚を避け、票などを恐れずに国の将来をもっと語ってほしいと思う。

あ、それから。ストレスをまえに敵前逃亡した某党首の顔を毎日ニュースで見るなんて、私にはとても耐えられそうもありません。

旬の鳥

きりきりと渡る目白や眠る里

人影のみられない集落のはずれ、頭上で「きりきり」と鳴く声がする。

見るまでもなく目白だ。
目白の季語は秋だが、私には冬のイメージの方が強い。なぜなら、夏などは高い山にいるが寒さがつのってくるに従い里に下りてくるからだ。最近は郊外の住宅地などで一年中見られるようになることも多いが、やはり旬は冬なのだ。

入会地

山柿やここはかつての入会地

山柿というのだろうか、雑木林のなかに朱色に熟した実が鈴なりになった柿の木を見ることがある。

ここはかつては入会地で人の手がきちんと入っていた山かもしれない。それが後継者難で放置されたまま、ただの雑木林として埋もれようとしているのではないか。でなければ、雑木の中に柿の木が一本今も立派に実をつけるというのはどうみても不自然だからである。

解凍

身ほとびるような列車の暖房かな

座席に座った途端、まるで体が解凍されてゆくような心地である。

電車の本数が少ないので長く待たされているあいだに体がすっかり冷えていて、電車の暖房がありがたい。ものの5分もしないうちに眼もとろとろとなってくる。

正暦寺

笹鳴きの案内に従ふ山路かな

正暦寺(しょうりゃくじ)の秘仏薬師如来さんに会いに行ってきた。

駐車場が狭いとあらかじめ聞いていたので、電車、バスでと出かけたはいいが。。。。
最寄りのバス停からは徒歩30分以上。ま、その程度なら全然問題ない。

しかし、しかしだ。バスの便がそもそもないのだ。バス停に行ってみると次のバスまで2時間ほど。途方にくれていたら、親切なご婦人が少々歩く覚悟なら近くまでのバスがもうすぐ来るよと教えてくれた。終点からひたすら東へ歩けばたどり着けるからと頼もしいことを仰る。おまけに終点までご一緒で、降りた後も行くべき道をしっかり示していただいたので勇気百倍。おかげで1時間少々で山門に辿り着くことができた。
途中「きりきり」とメジロは鳴くし、「ちゃっちゃっ」と笹鳴きの声。猪垣を張り巡らした里をのんびりと眺めながら目的地までのどかな道中でした。