邪険

コンテナのあふれ師走のバックヤード

宅配営業所は今かき入れ時。

これから、配達あるいは全国へ旅立つ荷物で作業エリアところせましと荷物を摘んだコンテナが並んでいる。
最近移転オープンした営業所で、以前より三倍も四倍も広い敷地なのに、それでも足りないというくらいの荷物の量である。
コロナ禍のころに比べたら格段の賑わいであるようだ。
久しぶりに荷物を出しに持ち込んだら、受付業務もずいぶんスマートになって端末でちょんちょんと叩くとあっという間に伝票が印刷されてゆく。大口顧客向けのアプリもあって、受注メールに記されたQRコードをかざすだけで簡単に発送できたり、人手不足が言われるなか、荷の増加に対応するためにもこうした業務の迅速化をサポートするシステムは欠かせないはずである。
スマホなど使いこなせないとまことに手がかかる客として邪険に扱わなければいいが。

第三者頼み

手帳買ふ妻の師走のきたりけり

日記はおろか手帳さえ買わなくなって久しい。

手帳を買ったところで持ち歩くわけでもないし、すると予定を書き込んでも開くこともないので見落とすばかりである。むしろ今ではほとんどマスの大きなカレンダーに書いてたほうが見落とすことも少ない。
一番大きな効用はそこへ書いておくことで家人がチェックしてくれることである。「今日は何時からどこどこクリニックだよ」とか。いちいち覚えていなくてもリマインダー役を家人が果たしてくれるのである。
つい先日、脳のスキャン検査をしてもらった家人が空洞もなく年齢よりずっと綺麗な状態であると言われて上機嫌で帰ってきたが、それでも手帳はいまだに手放せないようである。
記憶を他人に頼っているといよいよ先におかしくなりそうである。

年月

机辺のもの棚に師走の晦日前

ふだんの座もさすがに片付けようという気になる。

と言うてもいつも座っている今の卓の手の届く範囲だけど。
まして今年は娘たちの帰省もあるのでその場をあけねばならない。
するともう何十年と使い込まれた卓の塗りがあちこち剥げているのがあらわれて、ほとんど子供たちの齢と変わらない卓の年月がいとしく思えるのだった。

不機嫌

ATM不調の列の師走かな

田舎の支店だから二台しかない。

そのうちの一台だけ「調整中」。
たったそれだけで行列の長さがどんどん伸びる。
こうなると、機械の前に操作している人間の動作が気になって仕方がなく、少しでももたもたしていると舌打ちなどしてみたり、人々の気持ちがささくれだってくるものだ。まして後ろに並ぶ人間が距離を取らずに並んでくれたら不機嫌は最高潮に達する。
さらに、あと一人だと思っていたら、送金先がよほど多いのだろう、これが何回もカードを出し入れしている。もう爆発寸前。人間できてないなあ。

火の用心

非常食食す団地の師走かな

恒例の防災訓練デー。

消防署から指導員を招いて団地住民の啓発活動である。
消火器の訓練は、消化剤にみたてた水をいかにスムーズにターゲットに当てるか、防火栓をどうやって開け、使うか、など専門家から指導があり、それが終わると非常食の試食会。カレーあり、シチューあり、パスタあり。米も水や湯で戻すだけで三分ほど待てば、付属のスプーンで美味しくいただける。そう、防災食と侮るなかれ、結構これが美味いのだ。
あれこれちょっとずつ試食するともう一食分腹に入った勘定で、昼食はスルーである。

昔は暖房など火に頼らざるを得ず、また空っ風もあって冬は火事の多い季節だったので、火事は冬の季語となっている。石油ストーブを使う家の割合も減っているが、やはり冬は火の用心である。

掃除今昔

師走とて軒に吊してはたき売る

昔ながらの荒物屋だ。

ならまちをぶらぶら歩きして見つけた店。
間口一間半ほどの店先に、いかにも年の瀬らしい商品が並ぶ。なかでも懐かしいのは「はたき」である。
掃除のいまどきは掃除機全盛で、場合によってはロボットに任せる時代でもあるのだが、気になって仕方がないくせになかなか手が届かないのが鴨居、窓枠、家具など高いところの埃。化学繊維で出来た便利なものがあって隙間などにとどくクリーナーもあるが、高い部分はやはりはたきが一番。これを毎日かけてやると、大掃除の時にわざわざ雑巾をかけることも不要になる。
買って帰ろうか、どうしようか考えたが、家人はこういうものにはあまり関心なさそうなので見送ることにした。

奈良町の蔵元

うかと出て師走の街は定休日
蔵元とあつて酒粕完売す

奈良町の名だたる観光名所が定休の月曜、ある路地に小さな酒蔵が営業していた。

奈良町のど真ん中ゆえ、まさかここで酒を造っているとは思わなかったのだが、路地に面した格子には「新酒出来ました」だの「酒粕年内分の予約完了」の貼り紙がしてある。
酒造りというのは注文を受けてから始めるのではないので、あらかじめ決めていた計画に従って仕込んでいくのだろうから、人気があるからといって急な増産には応じられないのは当たり前だが、その酒粕が予約販売されていて、しかもそれがひと月も前に完売というのだから、よほどここの酒粕を気に入っている客が多いのだろう。

酒が飲めず、どちらかと言えば苦手な家人なので、滅多に粕汁や酒粕鍋にお目にかかることがないが、冬ともなると焼いてほくほくのこいつを、砂糖をまぶしておやつ代わりに食べた昔が懐かしく思い出された。

補)あとで調べたら醸造元は春鹿というものらしい。
ホームページにある醸造元がオーナーの「今西家書院」というのが隣地にあって、室町初期の書院造りという重文らしいが、ここも月曜日は定休。
急ぎ句会場へ向かう途中でゆっくり拝見できなかった蔵元や書院は、また別の機会に再訪してみよう。