陰に陽に

冠雪の山はるかにも県境

三重県境にある高見山が遠見にくっきり雪をかぶっているのが見えた。

西側から見ると高見山は三角の鋭い形をしており、いかにも中央構造帯にあるような急峻な面を見せている。
左下から右上にかけて遠くからでもよく見える何本もの陰影が入って、あれはおそらく地層が何層もあるに違いなく、山全体が45度傾げたような激しい運動の跡とみられる。おどろくべき構造帯のエネルギーである。
そばを通りぬけるときなぜだか恐怖を覚えるのは、そういう自然の力が陰に陽に人の心理を操っているとさえ思えるのである。
このような自然に恐ろしいほどに圧倒されるのは、立山横断の旅で大きな山がおおいかぶさるように迫ってくる恐怖を感じたときと似ている。
言い古された言葉ながら、人は自然の前では実に小さいのである。

雪中の事故

半島の南に雪の降るといふ

昼前ごろから雨模様となった。

その後ときおり音たてて降ったり、また止んだりの連続で気温は全く上がらない。
天気予報では南部山岳地帯は雨が雪になっているという。
数日前、熊に体当たりされて谷に落ちた登山者も雪降る大峯の山中であった。次に晴れたら遠くの峰が白く見えるかも知れないと思う。
年が明けても平年より寒い日が続くと言うから、今年はこころして冬に向かわねば。

JPCZ

積雪を近江の友に尋ねけり

JPCZと言うそうだ。

「日本海寒帯気団収束帯」はにはかに注目というか気象情報にやたら出てくるようになった用語だが、大陸の長白山脈方向から吹き出す寒気が二手に別れ、それが帯状の長大な対流雲となって山口から北陸方面へ伸び出す。これによって強烈な低気圧が形成されたりして、大雪をもたらすらしい。
福井嶺南地方から伊吹、岐阜へと伸びると時には名古屋、三河地方まで積雪をもたらす。今回の大雪もこれだそうで長浜の句友によると70センチ以上の積雪があったという話だ。夕べのうちに峠は越したようだが、雪国はこの後がまた大変なのである。
俳人はやれ雪解水だの、斑雪だの、風流を気取るが現地に住む人々の苦労までは思いがゆかない。
私が幼い頃住んだ北陸では、母はいつも雪解けの季節が嫌いだとこぼしていた記憶がある。いま思えば子供にとってはソリ遊びなどまだまだ魅力ある季節でそんなことは一ミリも感じた覚えはないが。

空模様

車賃札で払うて雪の駅

それにしても雪の多い年のことよ。

二日に一回は降ってくるような頻度である。
もっとも当地では積もる雪ではない。ひとしきり降ってはやみ、また降ってはやみの繰り返しで、洗濯物などうっかり取り込むのを忘れるとそれなりの被害がある。
家人が毎日天気予報、空模様をしきりに気にしていた理由が、彼女の入院中にしみじみ分かるような気がした。
昨日の退院から家人の右手として包丁を握り、アッシーとしてスーパーにつきあい、それなりに忙しい日々が始まった。

エアポケット

積むほどの雪ではなしと奥に告ぐ

久しぶりに雪という雪が降った。

年末にはどこかから飛んでくるようなものがあったが、今日のはほんとの雪だ。
はじめは粉雪、昼頃からは牡丹雪に変わってやがて気がつけば止んでいた。半日ほどは降ったろうか。
この辺りに雪が積もったのは10年以上も前に引っ越してくる前年のことで、不動産屋が言っていたように奈良でもめずらしく雪が降らない地域らしい。大和川が大阪府にぬけるあたりで生駒、葛城の山あい。そのあたりがエアポケットのように雪が少ない。
それは雨も同様で、盆地の他に雨が降ってもここだけは降らないことが多い。雨がほしいのに素通りされるとひどくがっかりする。

すぐ解けた

敗れ傘雪の重さにあらねども

朝からの雪で2センチほど積もった。

積もったが午後にはもう雪が止んで夕方にはあらかた消えている。
内科の予約時間がもっとも降った時間帯であったようで、無事に帰ることができた。
ただ、いつの間にか傘の骨が折れていたが、これは決して雪のせいではないようだ。

野菜高騰

信貴の雪載せて降りくる旦かな

引き続き天気が不安定である。

大きな音がするのでトラック通過かなと思ったら、どうやら雷のようだ。
冷たい寒気が上空に侵入してきたのかもしれない。
下は雨ないし霙なのに、道路を見ていると、信貴山の方から降りてきた車の屋根には雪が積もっている。はるか眺めやれば100メートルほどより上は白い。
外の気温は4度。予報ではさらに寒気が降りてくると言うから、いずれ下も雪景色に変わるかもしれない。それはそれでいいだろうが、程度というものがある。ただでさえ坂の町で出歩くのが億劫であるのに、足下をとられるようであれば買い物にも不便しそうである。
プランターの大根一本を引き抜いて、野菜高騰へのささやかな抵抗をしてみせたものの。