しゃきしゃき

間引菜のかろき辛みの鼻に抜け
間引菜のひげ根もろとも椀に浮く

プランターの大根が順調である。

すでに二回間引きして、いよいよ最後の間引きのタイミングを計っている。
一回目は発芽してまもない双葉のとき、二回目は本葉二、三枚の頃。
プランターの野菜培養土は目が細かいので、ひげ根ごときれいに引き抜けるが、順調に育っているとみえてそのひげ根にも土がびっしりとついている。できるだけ全部いただけるよう丁寧に洗い落とし、その夜の鍋ではほんのひとくぐりさせてしゃきしゃきのままをいただく。すでに大根の風格を帯びていて、香りはもちろん辛みも鼻に抜ける爽やかさ。
指南のウェブサイトによると、三回目の間引きは本葉五、六枚とあるのであと二、三日だと思うが、その時には根もしっかりと骨格をなしているはずだ。
もう一度、間引き菜のしゃきしゃきを楽しんだら、いよいよ大根の独り立ちだ。

散水機

スプリンクラー風にあらがふ花野かな

もちろん雨の今日ではない。

一週間ほど前のよく晴れた日の光景だ。
公園の大きな花壇に、これまた大きなスプリンクラーが回っているが、風上に向いたとき一段と吹き上がるように水しぶきがたっている。
いくつかのスプリンクラーの間を縫って、その水しぶきを避けるように、散策の人たちが日傘でもって花の丘を下ってくるのが見えた。

提寺

金堂の燭灯りたる良夜かな

今年はまれに見る月だった。

とくに宵のはじめは雲ひとつかからず、文字通り鏡のような輝きに魂が吸いとられるそうになった。
何度か外に出て仰いでみたが、夜遅くなってからちょっと雲がかかっても、それはそれでまた風情を楽しむことができた。
やはり、空気が澄んで、月がクリアになると、心まで澄んでくるように思え、まさに良夜である。

秋の藤棚

あをあをと藤の実太り藩校跡

藤の実というのはこんなに大きいとは初めて知った。

藤はかなりの古木とみえて、幹はもちろん、大の男の腕の太さもありそうな枝がいびつな形をしたまま幾重にも撓められて、棚の上はさながらジャングルのようになっている。その高さだけでも40センチオーバーになっていて、そのジャングルの中のわずかなスペースに長さ10センチ以上ありそうでふっくらと太った実がぶら下がっている。
実を飛ばすには、鞘が枯れてくるのを待たねばならないが、時期としては晩秋、あるいは初冬になるのであろうか。
今は十分に葉も濃い緑を残していて、少しくらいの雨なら雨宿りできそうである。

俯瞰

防人の踏みし峠の鷹柱
鷹渡る富士の裾野の一目に
そこに風あること教へ鷹渡る
目を皿に鸇の行方追ひにけり
数ふるを忘れてしまひ鷹渡る

日本野鳥の会によると金剛山の渡りがピークらしい。

東北や関東からはるばると降りてきたものの集まりだろうから、相当の群れにはなっているはずである。
10年ほど前に、知り合いに教えられて足柄峠まで渡りの様子を観察に行ったときの話は、このブログでも振れているが、そのときの様子がまざまざと思い出されてきた。
相当な高さを飛んだり、舞うので、慣れてない目にはなかなか捉えることは難しく、野鳥の会関係者と思われるグループの人にいろいろ指導いただいたこが昨日のようだ。
またいつか見に行きたいと思いつつ、なかなか実現していない。渡りを観察する場所といえば、鳥にとっても次の中継地点というか上昇気流の起こる場所が見渡せるような地点なので、渡りの季節でもなくとも眺めが楽しめるところであるにちがいない。
金剛の渡りのポイントを調べて、天気のいい日にビューポイントに立ってみるのもいいかもしれない。

霧霽れて

括られて一叢芒畑の隅

吟行は高取のかかし祭だった。

町おこしの一貫で、城下町の町家沿いに近代的な装いの案山子作品が並べられ、それを一つ一つ巡るのんびりした吟行だが、さすがに町家案山子を詠むというのは季題の本意には遠く、なかなか難しい吟行となった。
そこで、通りから外れた畑などに回って句材を探すことにした。
畑を囲むように秋桜が揺れ、菜畑の大根、キャベツ、白菜も順調に育っているようである。畑には、柿の実もたわわに見るからに生り年の風情を見せるかと思えば、ひときわ色を濃くした石榴も鈴なりである。
背後は、竹林だとばかり思っていたら、どうやら古墳の一角らしく鵙が巡ってくるし、鵯君も賑やかだ。
雨上がりの猫じゃらしがきらきら光り、草むらからは虫の声が盛んに聞こえてくる。
霧がかっていたのがはれて、三大山城の高取城の山がはっきりと見えてきた。
町からちょっと外れたところには秋がいっぱいあふれている。

靴裏を突き上げる

名園の木の実溜まりとなりにけり

櫟林を抜けて近道しようと思うと、ビシビシと音をたて団栗が落ちてくる。

櫟のあの丸くて大きな実は直径1.5センチほど。
さすがにあれが落ちると、苔の庭であってももんどりを打って大きな音がするものだと知る。
頭を直撃されてはたまらないから早々に抜け出したが、足裏にもはっきりと分かる木の実の大きさだ。