伊勢奥津の桜

杖なしに登れぬ坂の桜かな
山寺へ一本道の桜かな

そろそろ見頃かなと、伊勢・三多気の桜を見に出かけた。

山桜中心にいろいろな種類の桜があって、一部の枝には咲いているものがあったが、ほとんどの木は二分から三分咲きで、観光用写真にあるような眺めは見られなかったのは残念である。
全長1.5キロほどの上り坂の両側に桜が植えられてあるのだが、これがなかなかの勾配だ。平日とあって坂の半ばにある駐車場まで車で登れるのはいいが、なかにはお年を召していて歩き出してすぐに足が上がらないと諦めてしまう方がおられるくらいだ。
ただ、桜はまだでも、足許に野の花がいろいろ咲いていて、菫、二輪草、蕗の薹の薹のたったのなどが楽しめるし、放棄田の崩れかかった石垣にはコゴミも顔をだしていてちゃっかりいただいてきた。
結局、坂の終点の真福院さんまでは行かなかったが、生まれたばかりらしいオタマジャクシが水を張った田に黒々と固まっているのも発見できたし、遠くに千メートル級の山がおぼろに見えたし、天気に恵まれたまあまあの一日となった。
この分だと、来週の週末でも桜はまだ十分に楽しめるのではないだろうか。

波打ち際

サーファーの沖見るばかり桜貝

同じ桜でも貝の方だ。

さらに、桜貝といってもいろいろ種類があるらしい。やや茶がかかったカバザクラ、紅色のベニガイなど。でも、桜貝と言えば誰でも思い浮かべるのは、2センチあるかどうかくらいの大きさで、文字通り桜色している。しかも透けて見えるほど薄いので、いかにもはかなげで、かつファンタジーである。
貝を耳に当てると海の声がするというが、この貝は耳に当てるには小さすぎる。

海岸に着いたサーファーは、波の具合が気にかかって沖をみるばかりで、足許には注意を払おうとしない。波打ち際を歩いてみれば短時間のうちに桜貝の貝殻をいくつも拾えるというのに。

期間困難地域

植えられて見てももらへぬ桜かな

こんな異様な光景はない。

バリケードされて無住の街の桜。
桜並木のこちら側は避難解除地域でライトアップもされているが、あちら側は期間困難地域で深い闇のまま。

そういうもの

頃なればどこか人来る桜かな

しばらく、「花」シリーズを続けたい。

日本人にとって、桜は人を寄せるものだ。
蕾と聞けば、開花はいつだとなり、咲いたら咲いたでいつが見頃か、いつまでなら見られるか、そんなことが気にかかってしず心ない季節となる。
咲けば、その下に人が集まり、宴になる。夜は夜とて宵篝、最近はライトアップにとって替わられたが。

全然関係ない話だが、「人来る」というフレーズからこんな句を思い出した。

死にたれば人来て大根煮きはじむ 下村槐太

昔は誰に指示されるわけでもなく、隣近所、今風に言えばコミュニティの人たちが集まって、それぞれの持ち場でてきぱきとことが運ばれてゆく。自分も、死ねば、このように、ごく事務的にすべてがながれてゆくのだろうか、と。

距離置いて

一木に幾組の倚り花の宴

一方通行で、しかも立ち止まってはいけないほど混み合う桜まつりは勘弁だ。

若いときは、積極的に賑わいを求めて一員に加わるのも悪くなかったが、さすがにもうその元気はない。
そこそこは本数がある桜を、「そぞろ歩き」でじっくり楽しむ程度がいい。
茣蓙を敷いて車座の宴もいいが、風があったりすると意外に寒かったりして、長くは続けられない。
理想は、ざっと桜狩りしたあとは、その桜がよく見えるカフェやホテルでワインを傾けたり、桜弁当を楽しむことではないだろうか。要するに、少しだけ距離をおいて眺めるのである。

一本の桜の木の下で、何組も陣取るような桜狩りはちょっとうるさくていけないかもしれない。

高遠の桜

調度なき囲み屋敷の花疲

この週末は各地で桜まつり。

満開と祭が一致する年となったようである。
雨も朝のうちだけだったので、人出は多かったろう。
今までもいろいろな花を見てきたが、一番印象深かったのは、高遠の小彼岸桜だ。まず城自体は斜面に作られて大きなものではないが、濠と石垣がたくみに組合わされて攻めるには難しそうな要塞のようなものだ。登るたび行くたびに桜の景色に変化があって厳しい坂も苦にはならない。
桜を十分満喫したあと、城の下に再現された江島の囲み屋敷に寄ったことも桜の記憶とあいまって印象はより深いものとなった。
山深い場所だけに見頃の時期は中旬から20日前後だと聞く。
高遠から杖突峠へ出ての眺望もまた一流。信州の春はまたよいものだ。

国際色

さまざまな国の酒並め花筵

花見もずいぶん変わってきた。

そのひとつは外国人が増えて国際色を帯びてきたことだろう。
職場や学校には、ちょっと昔には考えられないくらい外国人の同僚や仲間が増えたことだろうし、お花見に行こうとなれば一緒に誘い合わせるのは自然だ。
仏教徒もいれば、ヒンズー教、イスラム教、etc.、宗教だって、さまざまなら、ワイン、ビールはもちろんマッコリ、紹興酒、etc.、酒の種類だってバラエティあっていい。もっとも、日本になれた外国人なら、日本酒だって、焼酎だって飲み慣れてるから、案外酒の種類は限られるかもしれないけど。

円滑コミュニケーションには有用だが、「きちがい水」とも言われるくらいだから、いくら無礼講でも公衆の前だ。大人の飲み方を示してもらいたい。