頭上にも佳い声

声のよき鳥きて桜若葉かな

句会場の天好園には広い庭園のここかしこに句碑がある。

その歌碑の一つ一つを確かめるようにして庭内を散策しながら作句していくのだが、さきほどから高いところでいい声で鳴く鳥が気になって仕方がない。キビタキの声だろうか?それともコマドリ?若葉を透かして木の天辺を探してみるのだが、見つからない。
こんな時は野鳥に詳しい人がいるといいのだが、宿の使用人のかたも詳しくはないようであった。

今日は俳句会月例吟行が奈良で行われるので初めて参加しますので予約投稿になりました。奈良公園でうまく詠めればいいのですが。

県境の孤峰

思はざる山に酔ひ余花に酔ふとは

県境は九十九折なり余花にゑふ

国道166号線、伊勢街道を下る。

三重との県境に近くなり標高1248メートルの高見山が前方に見えてくると、バスの中は歓声に涌く。もちろん初めて高見山を見る私もインターネットである程度想像していたとはいえ、こうしてあらためて肉眼で見てみると周囲を睥睨するような、いわゆる孤峰の姿というのは本当に美しい。
バスはなおも右に左に曲がりして行くとますます孤峰が近くなるとともに、そのカーブを曲がるたびに今度は次から次へと咲き残った桜が目の前に現れてくるのだ。山に酔い桜に酔う。伊勢街道の今は誰をも魅了するに違いない。

人の営み

沢水の零るるところ著莪の花

乱れ咲き沢になだるる著莪の花

よく手入された杉林の裾一面が著莪の花で覆われている。

山から沁みだした水を受けた樋からはほとばしるように飛沫があがり山水が小流れに導かれてゆく。一方、ありあまった水は沢をうがち、その沢になだれ込むように著莪の花が乱れ咲いているかと思うとそのまま高見川へと咲き降りてゆく。

著莪はかなり古い時代の帰化植物だそうである。人工林である杉山に生えているということは、なによりここには古くから人の生活があったという証なのである。

著莪の咲くすなわち人の営める

清流の美声

きれぎれに瀬音混じりに初河鹿

狼像の前を台高山地を水源とする紀ノ川支流の高見川が流れている。

川としてはかなり上流に位置するのだがこのあたりは川幅も広くゆったりとした流れだ。しばらく散策してみると句材が限りないほどある。
著莪の花が乱れ咲いて沢から高見川になだれ込んでゆくかと思えば、沢水を引いた小流れの底にカワニナが点々とみられ蛍を予感するものがあったり、目の前の貯木場から崩れた材木が河原に散らかっていたり、橋の中ほどに立てばいかにもシーズン最初のような消え入るような、しかしはっきりと河鹿と分かる玉を転がすような美しい鳴き声が聞こえてきたり。さらに、河畔の木の新緑は透けて見えるほどまぶしく初々しい。

川の名前からして目の前にある大きな山はあの高見山ではないかと尋ねる人もいて、新緑の秘境を大いに楽しみながらの吟行第一歩である。ここで30分ほど時間を過ごしたあと、次に句会場の天好園に向かう道は高見山を借景に夏桜が望めるというこの季節最高のロケーションではないだろうか。

自然児のフォルム

初夏や狼像の四肢の爪

東吉野村というのは、明治期日本狼が最後に見られた村だそうです。

若い雄だったそうですが、英人に買い取られ大英博物館の標本として保管されているとか。この標本をサンプルにした狼像が同村小川地区の高見川沿いに建立されていて、近くには山茶花主宰三村純也の句碑がある。

狼は亡び木霊ハ存ふる(おおかみはほろびこだまはながらうる) 三村純也

揚句はその狼像を詠んだものであるが、鋭く太い爪をしっかり大地に踏ん張り咆吼する姿が非常に美しいシルエットをみせている像である。

不釣り合いの大きさ

風あらば屋根打たんかに幟竿

屋根より高い鯉のぼりはらしくていい。

ただし、大きいのはいいが、庭のスペースに比して大きすぎるのもどうかと思う。支柱がわりのロープを四方にしっかり展開できないのでちょっとした風にも竿が大きくしなってしまうのだ。鯉のぼりセットは多分実家からのプレゼントで、贈り主が今までそうであったような感覚で従来タイプのものを用意したとみるが、普通の住宅地では屋根より高い鯉のぼりはやはり無理のようである。
屋根より高い鯉のぼりが2軒並んでいるところがあり、両方が風に大きくしなっている珍しい光景を見た。

今日は東吉野村吟行なので予約投稿です。

初瀬街道

開発のここにおよばず余花の径

桜井、名張経由の国道165号をたどって津に行った。

名張は30年ほど前に通りかかったおりたまたま夏見廃寺跡を訪ねたことがあって懐かしい土地なのだが、当時は周りには何もない状況だったのに今では立派な運動場ができたり、近くを通る国道165号沿いの変わり様は目を瞠るほど。近年大阪のベッドタウンとして開発されたとのことなので当然と言えば当然だが、名張と言えば旧市街のくすんだ瓦屋根の家並みのイメージしかなかったのでその落差にはおおいに戸惑わされる。
ひとしきり賑やかとなった名張郊外をすぎると青山高原口から久居に出る道だが、新緑まぶしい峠道に一本の桜の木がまさに満開であった。