殯の叫び

二上山の闇夜に尖る虎落笛

すさまじい風である。

車体ごと持って行かれるような風にしぜんハンドルをしっかり握ろうとする意識が高まる。
昼前頃からだんだん強くなってフロンドウィンドウを枯葉だのポリ袋だのが叩きつける。夕方にはもう飛ばされるものはおおかた飛んでしまって、フロントガラスを叩くものはすっかりなくなったくらいだ。
飛鳥の小原の里では竹林の孟宗が45度くらいにまでしなって、すさまじい轟音をたてる。対面に見える二上はいつもより山容がすっきりと見えて、この虎落笛は皇子が眠る山への「もがり」の叫びでもあるようだ。
下校中の中学生らが雨が止んでいても傘を広げて自転車を漕いでいるのを見た。どうやら、傘を帆に見立てて風に押してもらおうというらしい。いかにもこの年頃の子なら考えそうな遊びである。
今夜までまだしばらくはこの風は収まらないようである。

小寒

臘梅に人來て人の寄りにけり

曇天に影もなく臘梅の形はそばに近づかなければよく分からない。

いつの間にか臘梅が咲いていたのだが、まだ咲き始めたばかりとみえて匂いは全くない。鼻を近づけてもあの独特な甘い香りがないのだ。しげしげと眺めていると臘梅に気づいた夫婦もまた近づいてきた。
今日より小寒、つまり寒の入りだから野山には花が一番少ない季節である。一面枯れたなかにあってあの黄色い花は人目を引くのだろう。
最近は西洋タンポポが一年中咲くなど全く花がないわけではないが、やはり枯れたような枝に明るい花だけがついた臘梅は人の目を引きつけるのに十分である。

ゼロサム

大年の夕より晴れてきたりけり

日中は曇りにかかわらずばかにあたたかな大晦日だった。

このまま暖かな大晦日の夜になるかと思ったが、夕方から晴れてくるとともに空気が冷たいものに変わってきて、北風も吹いてきていよいよ大晦日の雰囲気となってきた。
最後に帳尻を合わせたような天気だが、わが家にとって、はたして今年はプラスマイナスどちらに傾いたと言えるだろうか。プラスならおおいに結構というところだが、大きな災いもなかったを見るとプラマイゼロといったところだろう。目出度し、めでたしである。
応援いただいている方々にも、来年もまたいい年であるように。

宅配ごくろうさま

節詰めて子に送り遣る小晦日

明日の午前中着を指定した宅配便。

それぞれ事情を抱えて帰って来れない子供たちへ、正月に間に合うように家人が大量のお節を詰めている。
それにしても宅配サービスというのは、この年末に荷が増えているだろうに、ほんとうにそれで大丈夫なの?と言うくらい迅速確実である。
どこかにしわ寄せが行ってるのではないか、などと思いながらつい頼ってしまっている。
いつも世話になっているネットショップも確実な宅配サービスなくては成り立たない。ほんとうにいつも本当にありがとう。

転換

私事曝しウェブログといふ古日記

ウェブログ、すなわちウェブ+ログの造語である。

略してブログ。
インターネット上にさらす日記のようなものである。
更新は毎日という人もいれば年に数回あれば上々という人までさまざまだが、この「奈良暮らし 一日一句」はタイトルの通り毎日更新が原則である。
歳時記には「日記果つ」だの「古日記」と言って、暮れが迫ってくるとこの一年を振り返ってさまざまな感慨にひたることを詠む季語があるのに対し、ブログはページが果てるわけではないがやはり年の瀬となればページを通していろんな思いが交錯することもある。
2011年から始めて9年目が果てようとしている今、新しい10年目への転換も間近い。

納会

手返しの頬をしぶいて餅を搗く

今年のイベントがもうひとつあったのを忘れていた。

自治会の餅搗大会と夜廻り、そして納会である。
夜廻りの方は若い役員の面々にお任せして、留守番役として陣取ったまま。
餅搗きの方は息のあったコンビが搗いた餅はやはり上手に柔らかく搗き上がるもので、後のちぎり、丸めの作業ががいちだんとスムーズにいくものだ。
軟らかい餅にまるめながら、失礼してつまんでいただくのもまた温かく美味い。
これで四年連続して役員を勤めたことになるが、来年はもう下ろさせてもらう約束になっている。
これが最後の納会となった。

徘徊老人

としなしのものうちそろひ年忘

後期高齢者あるいはそれに近い人ばかり。

さぞや食も細いと思いきや、何の、出てくる料理は前部平らげるわ、俳人というのは元気である。
逆に言うと元気がなくなると俳人ではなくなるということ。
初めての曾根崎あたりの店で、不景気はどこ吹く風の大賑わい。梅田の辺りも意外に若い人が多くてまだ日本は大丈夫かなと。
しかし、いざ散開となっていけない。たちまち西も東も分からない迷子になってしまい、大阪市内を抜けるのに1時間以上も費やしてしまった。家にたどり着くまで2時間半、すっかり大阪の徘徊老人となってしまった。