花とおじさん

犬ふぐり踏まれぬやうに咲けるだけ

地べたに這いつくばるように咲いている。

さらに、何かのかげで冷たい風を避けるかのように。風が厳しいところでは花も小さくて、足元をよく見ていないと踏んづけてしまいそうだ。だからなんだろうか、狭い場所に数いっぱいの花を咲かせるのは。「気づいてくれよ」と。

そう言えば、「花とおじさん」なんて歌があったっけ。

小さな花に口づけをしたら 小さな声で僕に言ったよ おじさん あなたはやさしい人ね 私を摘んでお家に連れてって。。。。

発進

天向けてその芽突き上ぐ白木蓮

めいめいの居場所定める白木蓮

秋篠寺の木蓮
梅がそろそろ終わりに近づいたなと思ったら次は白木蓮の番だ。

三月、散歩などしていると、背の高い白木蓮の枝いっぱいに、白くて大きな花が天に向かって突き上げるように咲いているのに出くわすことがある。いよいよ本格的な春が来たことを実感する瞬間だ。
その一月ほど前、立春を過ぎる頃寒い間それまで蕾を守っていた顎を落とすと、猫柳のような和毛の芽が顔を出す。春への発進である。

紫木蓮は桜が終わった後になる。

ほつほつと

白梅と分かる蕾の緑かな

白梅や一夜で世界変えて見せ

立野/観音寺裏の白梅

同一町内の立野地区にある観音寺さんに重文地蔵菩薩があるというので足を伸ばしてみた。

いつか紹介した洋ランセンターから旧信貴山道を5分くらい上ったところだが、残念なことに有名なお寺と違って公開されてるわけではないようだ。裏手に回ってみるとおりしも梅のつぼみが膨らんでいて、間もなくほつっと開花しそうな雰囲気である。
どうやら白梅に間違いないが、ここのは蕾が緑色だ。我が家の白梅のはちょっと赤みがかかった白なのだが。

タイヤ痕

凍解やかかと踏み踏み渡りをり

日に当たった部分から解けてくる。

解けた部分にはタイヤ痕がくっきり浮かび、溝の部分には解けた水が沁みだしている。泥たまりをかかと着地のジャンプで越えようとしたが、やはりズボンの裾を汚してしまった。

光のカーテン

苔寺に木漏れ日遍し寒明る

秋篠寺金堂跡の苔庭園
苔寺としてもよく知られる秋篠寺。

金堂跡の苔庭園には木漏れ日がきらきらとあふれ、幾条もの光がさしてカーテンのように見え、まるで水族館の底のようだった。

名のみの春

遠山に電波塔六基冴返る

朝起きたら雪が降っていて、屋根や道路にうっすら積もっていた。

間もなく雪は止んで晴れてきたが、葛城山ほか遠くの山がくっきり見えるほど空気が澄んで風の冷たさは変わらない。赤白に塗り分けられた生駒山のテレビ塔も肉眼ではっきりと数えられる。
奈良は今年一番の冷え込みだったとか。明日はさらに零下3度の予報。春は名のみの如月。

季語「冴返る」の句、他2編ほど。

右信貴山左龍田へ冴返る

懐手したる自転車冴返る

奈良を愛した歌人

春泥や見つけし歌碑の黒御影

奈良には奈良を深く愛した会津八一の歌碑が多い。

秋篠寺を南門から入ってすぐ左の林の中にもその歌碑はあった。

秋篠のみ寺を出でてかえり見る生駒ヶ岳に日は落ちんとす

よく磨き込まれた黒御影には本人揮毫による全ひらがなの達筆が刻まれている。