椿守一輪活けて去りにけり
集落西の端に当時の様子をとどめる環濠が残されている。
内濠、中濠、外濠という3重に構成された堅固な要塞都市だったことが分かるのだが、訪れたとき落ち椿が壕一面に浮いており、蛙は鳴くは、羽化したばかりの水馬はいるはで、句材には事欠かない風情であった。
惣年寄だった今西家の茶室があったあたりは、壕に隣接した公園として提供され、杏、榎の初々しい芽が吹いたばかり。折良く公園管理を委嘱されている人がやって来られて、やおら公衆洗面所のペットボトルに、今を盛りに咲いているのを剪ってきた椿一輪を挿したとおもったらさっさと立ち去って行かれた。一連の動作はまるで毎日の日課でもあるように、挙措にまったくよどみがなく、何事もないがごとく済むのであった。




