夏に向かって

蘊蓄をかたむけ亭主の花水木

街に花水木が賑やかに咲くようになると東京の家が懐かしくなる。

メインツリーとして20年以上我が家の顔だった花水木が満開を迎えると、ご近所の人や通り過ぎる人から賞賛の声をいただいたものだった。
今でこそ花水木は街路樹に庭木にとポピュラーな存在で、各種の栽培品種も出回っているが、当時ははなびら(実際には花弁ではなく総苞片)が小さな薄赤色のものしかなかった。
ただ、元来樹形が円錐形に整いやすく、葉よりも花のほうが先ということもあってこれが枝いっぱいに花をつけるとさながら春のツリーという風になり、遠くからでもはっきりと認められるのであった。

その花水木の足下には芝桜やらサツキやらカルミアやら、これから5月連休にかけて賑やかな日々がやってくる。

菜の花もどき

芥子菜が半ばを占める河原かな

とくに関西以西の河原に多いという。

西洋芥子菜。
食用としての芥子菜は弥生時代に渡来したものらしいが、それが野生化したのが西洋芥子菜だそうである。
最初見たときは、菜の花、つまり油菜かと思ったが、よく見れば葉や花にボリューム感が足りない。
遠目では分からないが、近づいてみると「?」となる。
時期的には菜の花が4月初旬頃におわるとすれば、こちらは一月くらい遅れるようである。

関東地方の河原で、もしも菜の花のようなものが群生していればそれはセイヨウカラシナかもしれない。

汐吹き

床濡れるほどに砂吐く浅蜊かな

今ではアサリやシジミというのは、スーパーで買うのが当たり前となっている。

この時期になるとうまいアサリの汁を食いたくなるのだが、うちの嫁さんときたら、流通が複雑で本当の産地というのがよく分からないという理由ですっかり買ってこなくなった。
たしかに、三重産と書いてあっても最後の袋詰めしたのが三重であって、そいつはもしかしたら半島からの輸入物かもしれないのだ。
産地はともかく、複雑な流通のせいか、ぷっくらしたアサリなりシジミというのは最近は滅多に口に出来なくなったのは事実である。それに、真空パックみたいな袋詰めされ息も絶え絶えのアサリなどとても旨そうには思えない。

大粒のアサリをバケツ一杯収穫しては包丁を差し込んだ金盥で砂吐きさせるのだが、床がすっかり濡れるほど盛大な飛沫がとんだ昔の光景が懐かしい。

葦始生(あしはじめてしょうず)

一畝の芽掻き終えたる穀雨かな

平群の特産・小菊の新芽がいっせいに吹き出したようだ。

数人の農婦が畝の手入れをしている。
不揃いの新芽を整えているのだろう。
今のは多分二ヶ月くらい先の出荷だろうから、盆、秋彼岸とピークにむけて時期をずらしながら畝の準備がされるんではなかろうか。このあたりは、観察を怠ってはならない。

今年の穀雨は実は昨日、穀雨を使った句を詠もうと思っていたのに当日はすっかり忘れていた。

地上の逍遥

地を這うは用心あるべしおか雲雀

今日の写真はちょっと見にくい。

家の裏で餌を捕りながら歩いていたのを、急遽換算200mmのマニュアルレンズで撮ったものなのでピントもずれている。
3月になってから、毎日のように家の上空で何羽かのヒバリのさえずりが聞こえる。
今日も上空50メートルほど上で鳴いているので見上げていたところ、裏の空き地に別のが降りてるではないか。あわててカメラを取りに行って写したものだ。
パソコンに取り込んでみたが、やはり正体はヒバリだった。雀よりちょっとだけ大きい。
ほんの目の前、5メートルくらいかな、こんな間近でヒバリを見るのは初めてだった。

夏日

山峡の畑やわらみ山笑ふ

今日の奈良盆地は気温25度で夏日。もう初夏と言っていい日差しだった。

昨秋、雑木紅葉が見事だった山が一気に眠りから覚めて萌えの時節を迎えている。
山あいの聚落も見違えるほど明るくなり、畑では多くの人が農作業にいそしんでいた。

急坂の上千本

忠信が忠義の坂も花名所

天気図と相談して吉野山へ行ってきました。

期待通り、最高の眺めです。

上千本・花矢倉展望台から。
遠くに金剛・葛城山が望めます。

最初、麓の吉野駅からバスを乗り継いで奥千本に着いたのですが、まだ開花してません。
そこで西行庵はあきらめ、上~中千本まで徒歩で降りてみることにしました。
西行庵へは秋の紅葉時にでもチャレンジしようと思います。
ところで、その西行庵、本当に奥深いところにあるんです。奥千本のバス停から仰ぎ見たわけですが、吉野山でも一番高い辺りにあるのではないでしょうか。その先はもう空しか見えません。
食料調達の必要もあって最低限の麓との行き来があったでしょうが、それ自体行ですね。
さすが、奥駆け修行の本場です。

中千本でいただいた葛切りは汗をかいた後だけに、喉ごしひんやり。

これを句に詠もうと思ったのですが、葛の季語は夏なんですね。
吉野山ですら今日の天気は初夏といっていいくらいの暑さなんですが、ちょっとね。
桜の塩漬けが甘いシロップとハーモニーして疲れた身体に活を入れてくれました。