第二弾

甘藷植ゑて雨の便りを待ちにけり

サツモイモの苗が高い。二十本千円くらいする。

二種類を育てたいのでこれはふところに響く。
そこで自前で苗作りを試みてみたのだが、これがまたなかなか難しい。第一に時間がかかりすぎる。冬の間に芽を出した藷を春先から初夏まで辛抱強く具合のいい長さに育てるまでが四〜五ヶ月。そのうえ、サツマイモは高温が大好きときているから素人菜園で環境を整えるのが一苦労である。
とりあえず、必要な長さに足りるまで成長できないまま第一弾として植えることにした。根づいてある程度つるが伸びてきたら必要な数だけさらにつるを切り取って第二弾ともくろんでいたのだが、これもなかなか思惑通りにはいかないものである。できるなら今月中には済ませたいのだが間に合いそうもない。
結局、不足分を買うことになって今日挿してみたのだが、約四ヶ月、秋の収穫まで厳しい熱さを乗りきらねばならず心配の種は尽きそうにない。

熱波

風薫る坂をきゅきゅきゅとあんよ鳴る

手を引かれた幼児が坂を登ってくる。

よちよちするたびに靴がきゅっきゅっと鳴って、その覚束ない足元がかわいらしいので目を細めて見送る時間が長い。
今日は30度をはるかにこえて真夏日、しかも風も弱かったので日中の外は熱波で危険なほどである。夕方になっていくらか風も出てきたようなので幼児にもいくらか安心できそう。
外はいくらか過ごしやすくなったが、室内は昼間の熱がこもってさすがに扇風機だけではつらい。
冷房機に今年初めてのスウィッチが入った。

寸鉄

子蟷螂糸さながらの五体振る

すでに立派な蟷螂の形である。

おそらく生まれて間もないはずだが、あたりを見回すような警戒のそぶりが見てとれる。
体長はまだ一センチたらず。一寸法師ならぬ三分蟷螂だが鎌はすでに備えており寸鉄人を刺すがごとき不適な面構えが頼もしい。
緑がぐんぐん伸びるこの時期は湧いてくる季節。新芽や葉を食い荒らしたり、果実を吸ったり、いわゆる害虫もいっぱい出てくるので、これらを食ってくれる蟷螂はありがたい存在。
「頼むよ」と声を掛けて無事な成長を願った。

青春謳歌

人参の咲いてあてなる虫寄り来

ここ数年全国で爆発的に増えているというカメムシ。

種類だけでも1000を数えるというから、形や色、大きさなどもまちまちでカメムシと聞いて思い浮かべる虫の姿は人によっておおいに異なるかもしれない。
よく見られるのがマルカメムシ、名の通り全体にまるく大きさは六、七ミリほどだろうか。ついで、クサギカメムシ。こいつはマルカメムシより大きくて一センチほど、亀甲形をしている。同じような形でも全体に緑がかったのもいて、これら亀甲形がとくに農作物の汁を吸ったりして病気をもたらす厄介者である。匂いも頭が痛くなるような刺激があるので、洗濯物について室内に入り込もうものなら大変な騒ぎになるのはご承知の通り。
前にも書いたが、種取のための人参の花にくるのはアカスジカメムシ。名前とは逆に小豆色の体に黒のストライプ。なかなかお洒落である。これはセリ科が大好きだという。この時期はかれらの交尾期と重なっているようで、真っ白な毬のような花の上で何組ものカップルが青春を謳歌しているところである。
7月には白い花が焦げ茶色に変わって種が穫れるので、そのまま畑に蒔けばほぼ百パーセント発芽する。これは発芽さえすれば半分はできたと同じと言われる市販の種に比べれば驚異的な成果で、菜園仲間にもどんどんお裾分けして喜ばれている。

独り占め

通販のちらし軽くも扇風機

いよいよ梅雨が近づいてきて風は湿っぽい。

外気を入れるがそれでもすかっとしないので扇風機を軽く回す。
独り占めだからその場を少しでも離れるとたちまち蒸し暑さに辟易するので、いきおい席を立つのも最低限にとどめる。
運動不足をますます助長するようでこれではいかんと思うのだが。

外海

塩焼の梭子魚かますに残る鱗一片

梭子魚はあの匂いが苦手という。

それでも買ってくるのは夫が美味そうに食うからだと。
金婚も過ぎて初めて聞いた言葉に戸惑う。
たしかに、今日食ったのは塩焼で、関東でよく食った干物に比べれば水分が抜けてないせいか生臭いようである。
梭子魚は伊豆や小田原あたりで買う干物が一番うまい。海に生活排水が流れ込むことが少なくて、沿岸の海水自体に生臭みがないのかも知れないなどと考える。東京湾で釣る魚には潮の速いところを回遊するスズキですら川水の匂いがして、自分で釣ってもあまり食いたいと思わない。
その点外海で釣った魚にはあまり臭みがなく、どんな魚でもおいしくいただけるようである。

敵討ち

灼け板に不覚とられて油虫

日中のバルコニーの熱さは半端じゃない。

うっかり裸足で歩こうものなら火傷をおいかねないほどだ。葭簀でもかけておけばいくぶんかは和らぐだろうが、そうたびたびは出ない場所なので放置したまま。それがかえって、忘れたころに再び熱い思いをするから厄介なのであるが。
越してきて十年以上も経つと、そんなバルコニーにも油虫、関東ではごきぶりだが、が侵入することもある。昨日などは床の熱さだろうか、やけにのろいのが這い回っているのでたやすくサンダルの底で打つことができた。ここで遭ったが百年目とばかり敵討ちできたわけだが、無様にひしゃがれた奴を見ているとそこまでする必要があったのかどうか、後になって少しばかり気が引けるのであった。