潮風

海たりし地の屋高く麦酒園

梅雨入りが遅れている。

遅れて困るのは水が命の農家であるが、長いことサラリーマン生活を送っているときこの時期の社を出たあとの時間の楽しみと言えばビール園だった。職場の仲間と連れだってジョッキのお代わりを楽しみ、枝豆をぱくつく。
この時間があればこそ、一日のいやなことなどきれいさっぱり洗い流され上機嫌でみんな地下鉄に消えていく。
つくづくと思うのだが、社のみんなと吞むときはやっぱりぺいぺいの時代がいちばん輝かしい。昇進がちらついてくるような年代になると、どこかよそよそしくなったり、吞む仲間が固定してきたり、心から冷たいビールを楽しめなくなるのだった。
今は自由でいつでも呑めるようにはなったけど、どういうわけかノンアルコールしか受け付けなくなったのはまた淋しいものである。

様変わり

独り来て植田みるみるうまれけり

いつもの景色と違った。

どうやら今日田植えしたらしい。
この辺りではまだ一枚目だが、週末の明日はあっという間に周りの田も植え終わるに違いない。
棚田なので規模はそう大きくはなく、一枚植えるにも短ければ一時間ほど、長くても二、三時間で終わってしまう。
昔のように家族総出で植えるという景は見られない。たんたんと田植機が田に入って、何往復かしてそれでおしまい。
田起こしに始まって、畦塗り、代掻き、どれも機械でやるのでほとんど独りで済ませてしまう。
子供の姿などはいっさい見られない、田植え光景も様変わりである。

生存競争

地生えして密なる紫蘇の大競争

いつものようにこぼれ種が一斉に発芽した。

いったいどれが生き残るのか。あるいは人が手助けしないと共倒れに終わるのか。
そんな三密世界から一歩離れて悠々と育っているのもいる。結局どれかに絞ってやらないと、畑が紫蘇ばかりになってはかなわない。密集の一団はいずれ消えてもらうほかなさそうである。

純白

山梔子のけさ健やかな真白かな

今のところ虫の害にはあってない。

花の時期になると決まって青い虫に丸裸にされていたのだが、今年は違うようだ。
何が要因か知らないが、いずれにしてもありがたい。
何年かぶりに健康的な真っ白な花が復活して玄関先が明るい。
最後まで無事に済むよう毎日こまかにチェックしておこうと思う。

土壌成分

紫陽花のところをかへて色直す

青色でいい形のものが毎年咲くので挿し木で増やしてみた。

その株を親からちょっと離れたところに植えたのだが、何と赤が現れて何故だか花の色がまったく異なってしまった。
二種類の親から挿し木したのでもしかしたら札を取り違えたのかもしれないが、ミスはなかったように思う。
紫陽花は土の成分によって色を変えるというから、もしかすれば植え込みした先がいくぶん肥えているためではないかと思うのだがどうだろう。
残った苗(別の親のはず)も全部植えてみて、それも皆赤なら土壌成分依存説が正しいことになる。
平年ならば梅雨入りの頃となったが、しばらくはお預けのようだ。
紫陽花も雨待ち顔である。

青壮年

老鶯の調子に歩幅いつになく

今日の鶯は絶好調のようである。

いつになく声も大きく、同じ調子でずっと鳴き続けている。これを聞きながら歩くと自然にリズムも整い、いつもより足も能く上がるような気がした。
名前は老鶯だが、決して年老いてはいず、人間で言えば青壮年にあたるのだろう。じつに頼もしい啼き声である。

褒美

おざなりの杜鵑花に金賞授けたし

そろそろ庭の花が尽きてきた頃。

梅雨入りを前に真っ赤な杜鵑花が咲いてきた。
いつもよりちと遅いような気もするが、これも天候不順のせいか。
ともあれ、手入れらしい手入れもしてやらなかったのに、思いの外見事な咲きっぷりの杜鵑花をほめてやりたい。ご褒美は花後の剪定かな。