渇き

青みかん喪主の勤めを果たし終へ

初七日法要まで一気に済ませる長丁場。

無事済ませたら急に喉の渇きを覚え、盛ったかごの中から青みかんを次々取り出しては口に放り込んでいた。初期のみかんの淡白なみずみずしさが喉に心地よい。

真一文字

菊の香や遺影の母は微笑みり

参観日の母は誰よりも美しかったのが自慢だった。

死化粧を施してもらって久しぶりに紅みがさした頬を見ながら小学生時代の一コマを思い出した。ただ、真一文字に結んだ唇はその後の厳しい人生の証であるかのようであり、容易に人を寄せ付けない意志の強さを示しているようでもあるのに驚かされた。
享年89歳。

いつの間に

看る日々や桜紅葉の時を過ぎ

さらに症状が悪化して介護衛生用品をまたたく間に消費するので急遽買い出しに出る。

地元の工業高校前を通ると、桜は紅葉の時季を通り過ぎてその葉の半分以上を落としていた。

睡魔

秋の雨今日新しき処方箋

今日から鎮痛・麻酔効果が期待できる薬種が増えた。

痛みや絶え間ない吐き気に襲われ眠れないのだろう、点滴中であっても一日中家の中をはいずり、徘徊するので片時も目が離せない日々が続いている。
日々増す痛みにたいして可能な限り軽減しながら、体力が低下するにしたがい徐々に老衰の域に導き静かな最期を迎えさせる、そんな治療方針のもと医師や看護師、介護士さんたちのお世話になっている。

昨夜の睡眠時間は3時間、さすがに夕食を終えたら睡魔がかぶさるように降りてきてこの稿を仕上げるのが精一杯。たくさんコメントをいただいているが今日のところは失礼させていただきます。

夕方からまとまった雨が降っている。そういえば南にはまた台風が来ているとか。

がえんぜない

身に入むやいくばくもなき日思へば

今日は一変して食欲が旺盛でご飯を食べたいと言う。

食べたら激痛に苦しむのを分かっていながら「少しならいいか」と用意したが、やはり七転八倒の苦しみをただ見ているしかなくて後悔の念がたつ。
理屈が通じない病人というのは、病気に立ち向かう気構えを求めるのは不可能なので一緒に戦うことすらできないもどかしさと、治療法の選択肢までもが狭められるもどかしさがある。

夕食はなだめすかして諦めさせたものの、果たして今夜はおとなしく寝てくれるかどうか。

切迫する

十月を限りの命と医師告げぬ

昨日の夜から母の容態が急変した。

往診の医師によればこういう例だとあと3週間ほどの命だという。母は意外に生命力が強いのでもう少し頑張るかもしれないけど、それだけ痛みと苦しみが続くのだから「そんなに頑張らなくてもいいよ」と心の中で語りかけてやりたい。できるなら、最後までずっと眠ったままで苦しまずにいてくれたらどれだけ救われるだろう。

今夜からベッド脇に蒲団を敷いてもしもに備えることになる。