日に日に

祭日の新聞薄し小鳥来る

特徴のある鳴声だ。

朝刊を取りに出てすぐに気づいた鳥の声だが、ジョウビタキにちがいない。見回しても所在を確認できなかったが間違いなくジョウビタキが降りてきたのだ。
これから渡りの鳥たちが日に日に増えてくると思うと、冬の足音も悪くない。散歩の距離もおのずから延びてくるというものだ。

貧乏揺すり

膝閉じて貧乏揺すり冬隣
うたた寝のおのれを叱る冬隣

気がついたら膝を抱きかかえるように坐っている。

膝掛けさえ欲しいくらい冷えてきた。
このままうっかりうたた寝などしようものなら間違いなく風邪をひくだろう。
暦を見てみたら立冬は11月7日だという。
間違いなく冬は足もとにきている。

空虚な気分

橘の実の乏しきに秋の蝶

今年は柚子がさっぱりである。

ただ一個、ぽつんとぶらさがっていおるだけである。
そこへ白い蝶がやってきてひとしきり取りつくように舞い飛ぶ。
しかし、何も得るものがないと悟ったか、弱々しくどこかへ去って行った。
どことなく物悲しい光景を見てしまったなあと空虚な気分に侵されるのだった。

取りつく島

うそ寒やぴしゃりと話たたまれて

話が続かない一言というものがある。

「ああ言えばこう言う」ならば答が返ってくるだけ話が続くのだが、一言でぴしゃりと話をたたんでしまわれては黙るしかない。とりつくしまもないとはこういうときだろう。
味気なき気分だけが残って、気まづい空気に支配されては、再度話を始めようとは思わなくなる。

一騒動

さてどこに眼鏡行ったか暮の秋

いよいよ晩秋の趣を強くしてきた。

家の中より外の方が暖かくて、庭仕事もはかどる。
毎朝露が降りるので、それが乾く頃合いを見計らって外でたっぷり日を浴びる。
終わると体が温まって部屋に戻っても厚着する必要がないくらいだ。
今度はちゃんと庭木にも寒肥をしてやらなければと、肥料の仕込みも。発酵が終わるのはあと2ヶ月ちょっとくらいだから、2月には十分だろう。
連れが眼鏡ないないと大騒ぎ。つきあって探すこと30分。
案の定、「こんなところに」で一件落着。

猫団子

後の月さへぎる影のなき盆地

明日が十三夜らしい。

ところが予報は曇。ならばと外へ出て仰いでみると意外にも今年は青くない。もちろんそのときの気象条件によるのだが、今夜もまた高気圧が真上にあるので放射冷却効果が顕著にでる盆地である。
秋の低気圧は猫も喜ぶが、高気圧は逆に猫の大敵。
ここのところ猫どもはいわゆる「猫団子」化して固まって夜を過ごしている。
それにしても、都会と違って田舎はいい。月を遮るビルもなく、空は広いのである。

ライバル

猫の足濡れて戻りぬすがれ虫

一匹だけ細い声が聞こえる。

しかし最盛期とちがうのは、人の気配を感じただけでぴたっと鳴りをひそめてしまうのだ。ただでさえ心細いようなかぼそい声で鳴くのだから、ぴたと止んでしまうと少しでも変化がないかといっそう耳をかたむけて聞こうという気になる。
やがてその場を少しはなれるとまた小さな声で鳴き始める。虫の鳴くのは雄だけだと聞くが、鳴き交わす相手もいなくてライバルもいないのだろうが、だいいち聞きとめてくれる雌がいるのかどうか、それさえも分からない。