みすぼらし

強東風に白梅いとどやせにけり

あれほど爛漫と咲き誇っていた白梅が一気に吹き飛んだ。

曇り空とはいえ昼頃まではいかにも春のあたたかで何をしていてもストレスを感じることはなかったが、午後から青空がのぞくようになって風が冷たくなって一気に体感温度を下げてしまった。
梅はと見ると朝とは様子がどうも違っておかしい。枝にびっしりとついていた花片が俄然減ってしまったのが原因のようだ。
それにしても梅というのは一気に散ることもあるんだと知った。風さえなければはらはら散る風情は桜にも負けないと思っていたが、こうもあっけらかんと吹き飛ばされてしまうと急に梅が見窄らしく見えてしまうのだった。

春告鳥

一声のしかし確かな初音かな

ふいに竹林から聞こえてきた。

まさに「藪から棒」という感じである。
今日は四月中旬の陽気とかで、初期とは思えないくらい確かな音程で一年ぶりの鶯の声を聞かせてくれた。
当の鶯にしてみれば、とっくに鳴き始めてたよと言うことだろうが、そういうチャンスにはなかなか巡り会うことは少ないので私にとっての初音と言うことである。
この辺りでは二月中旬頃それまでの笹鳴きから本鳴きに変わるとされている。
梅に鶯とはよく言ったもので、春告鳥の別名もすなおに頷けるのである。

指を染める

土筆野やミレーの農婦見るごとく

まだだった。

これで都合二回も空振りだ。
去年から目をつけておいたところはヨモギや茅の芽もまばらに、土筆に至っては全然顔を出してないのだった。
ゆえに、掲句はフィクションの世界である。
ただ、もしも期待通り生えてればそれこそ取り放題と言っていいくらいわさわさと顔を出すはずで、それこそつくしを摘む様は遠くから見ればまるで落ち穂拾いの絵をみるように採っても採っても尽きず、どんどんつぎ前に進んで行くようになるのではあるまいか。
明日からは弥生三月。
土筆の花粉で指が緑色に染まるのも近いだろう。

のどけからまし

嘴太の畷去らざり地虫出づ

大きな鴉を見た。

いつも見るよりもでかいのでもしや雉子かと目をこらしたが、所作はどう見ても鴉のようである。
畔の一カ所をしきりに徘徊していて、何かを探しているようだ。
しばらく眺めていたがぐるぐるとまわるばかりでいっこうに飛びたたず、適当なところで切り上げることにした。
ミミズあるいは何かの虫でも狙っているのだろうか。
天道虫はとっくに活動しているし、カエルなどもじきに顔を出す頃であろうか。
今年の啓蟄は3月6日になる。
しばらく寒さで縮こまっていたが、今日から春らしい日が続くそうである。そうなるとここ毎年のように一気に夏に向かいそうで春を味わう期間は短いのではあるまいか。30度を越える日もあったいう間に来そうで、桜の喧噪もそこそこにあわただしい春になりそうである。悠長に桜なかりせばのどけからましなどと気取っていられないかも。

ダブル暖房

猫どもの抜け毛まるけも春炬燵

終日すかっとしない曇天。

久しぶりに霜が降りたので放射冷却すなわち高気圧イコール晴れるの期待もむなしく、風は冷たく体の動きもにぶくなるはで散々な日曜日であった。
二月も終わろうというのに昼間から床暖、エアコンのダブル暖房で節電、省エネどころではない。
床暖の上に置いた炬燵はいつのまにか猫四匹の居場所となって人間の入り込む隙間はないし。
エアコンのおかげで顔はほてるは、足はぽかぽか。昼寝モードに陥らんとするもこれではいかんと庭仕事に励んでついに夜を迎えることとなった。
明日は晴れて気温も十度を超えるということだが、そうなるといよいよ杉花粉多しという具合で痛し痒しである。
ま、これで春が一段進むということだから我慢しいしい、文句ぶつぶつやっていこうとしようまいか。

甲羅干し

梅林や鯉の大口ぽくと鳴り

鯉だけでなく甕まで浮いてくる。

寒鯉は水底に潜んで動きも鈍かったが陽気に誘われ競うようにパン屑に食いついている。亀の群も遠巻きに機をうかがっている。
家族でたびたび訪れた市民公園の梅林の写メがこのほど送られてきて、すぐに頭に浮かんだのは池の中央にかけられた橋の上から子供たちと一緒に鯉に餌やりをしたことだった。
この公園は谷戸にあるので三方が丘陵に囲まれていて、梅の開花が他よりはいくぶん遅めである。
満開となるのは三月に入ってからとなるので、その頃は昼間の気温もずいぶん上がってきて鯉が活発に餌を求めるように橋の下に集まるのだが、亀たちもあちこちの岩に甲羅を干している様子も見られる。
亀と言っても、ご多分にもれず放流されたアメリカミドリガメが大半を占めていて、何年かに一度は駆除をしているようだが繁殖力の強さには追いついてないようである。
この公園のすぐ近くにはかたくり圓があり、花の期間だけオープンとなる。今年も3月末から10日間の予定らしい。
当地では大宇陀の薬草園にあるかたくりの群生が知られているが、ここも3月末ころが見頃となる。
大宇陀は当地より春が遅いが、どうやらかの市民公園も関東の周囲より春が遅れてくるところらしい。

しぐれ煮東西

けふの潮けふの風聞け蜆舟
船縁をてこに五体の蜆搔
転がして揺すつてみせて蜆選る

宍道湖の蜆をいただいた。

と言ってもしぐれ煮だが。
これがことのほか旨い。
煮てみればこんなに小さな身に旨さがぎっしりとつまっており、ほんの少し茶碗にのせただけで甘い匂いが食欲を誘う。
浅蜊のしぐれ煮として桑名が有名だがあれはやたら塩辛くお茶漬けでなくては喉を通らないが、これは逆に甘くさえ感じるくらいで蜆の地味な味を十分補ってあまりある旨さというべきか、お茶漬けで流し込んでしまうには惜しい味なのである。
いまや資源的にも貴重な蜆となっているので宍道湖のものなど簡単に手に入らないが、こうして保存のきく食品として流通されるのはありがたいことである。