ガラパゴス農園

吾が農園自然農にて梅雨晴れぬ

自らを「ガラパゴス果樹園」と名付ける農園があった。

垣根に木苺や葡萄を巡らし、李やリンゴのほかさまざまな果樹を育てているようだ。
どうやら自然農法を取り入れているようで、雑草は伸びるに任せ。明らかに一般的な農園と違う雰囲気で、ガラパゴスとはまさに自らを諧謔的に、しかしはっきりと独自の信念を宣言するために名付けたものに違いない。

衛士不在

梔子の花垣もはや錆び初めし

梔子の花垣沿ふて守部小屋

梔子の花垣に会ひ蜂に遭ふ

神功皇后陵の守部小屋には衛士は誰もいなかった。

梔子の垣根

あったのは梔子の垣根で、香りを嗅ごうと顔を寄せたら垣根の中から驚いた蜂が飛び出してきたので、こちらも慌ててしまった。

かわらない味

背の届く枝の楊梅賞味せり

手の届くかぎりやまもも恣

枝たはめ朱き楊梅選びをり

枝たはめ啄みをりぬ楊の梅

吟行メンバー一同、実際に手にとって食べてみた。

大ヤマモモの木の下で

あまりにもたくさん成りすぎたので実一つ一つは小さいが、それでも味はヤマモモ。少年時代に食べた味を思い出していた。

李も桃も?

果実酒にせむと楊梅拾ふなり

日葉酢媛命陵の前でおおきな楊梅(やまもも)の木に出会った。

日葉酢媛命陵前でヤマモモを拾う親子

木の根元を中心に半径7,8メートルくらいの範囲によく熟した実がいっぱい落ちている。見上げると木にもまだまだ実がいっぱいついていて、鳥たちが食べに来ても容易には食べきれないくらいある。

これを果実酒、いわゆるヤマモモ酒にするんだと言って、市内からやってきた親子がいた。
僕はというと、道に落ちてるやつを数個拾って濠に投げ込んでみたら、亀や鯉たちがやってきてたちまちのうちに飲み込んでしまった。

現世の花

みささぎの常世と隔て夏あざみ

結界のこちら現世夏あざみ

宮内庁管轄の陵墓は立ち入りが厳しく制限されている。

神功皇后陵前の薊

周囲は厳重な柵が設けられているのだが、神功皇后陵ではその結界に沿って咲いている夏薊の朱紫が鮮やかに目に映った。薊には罪はないけど、まるで現世のあだ花でもあるように。

実は、この句はある句からヒントをいただいたものだ。
当日一番に詠みたかった光景なのに、「結界」という言葉が思い出せなくて時間内にどうしても詠めなかったのだ。ところが披講、選句となって、

結界の外に一輪夏薊

を見て眼から鱗の思いで第一に選句させてもらった。そう、キーワードは「結界」だったのだ。神聖な領域のすぐ外に鮮やかな夏薊。現世のはかなさ。単にそれだけを言うために。

この句から類想の「常世」が生まれたというわけだ。

共同作業

にちようび男総出の溝浚ひ

イメージがあったのだがなかなかものにできなかったのが、今日一ヶ月ぶりにふっと句にすることができた。

先々月「鎮守の森を観にいこうかい」で桜井市に行ったときのこと、男たちが手に手に鍬や竹箒などを持ってそれぞれ家路についている光景をある集落で目撃した。どうやらその日は集落の申し合わせで一斉のいわゆる「どぶさらい」の日で、共同作業が果てたあとの様子を目にしたのだった。蓋をされてないままの、集落の側溝の脇には泥がうずたかく盛られているのを見て合点したのだった。