暑い秋

県庁に鹿の宿れる白雨かな

ニュースで見た映像。

いつもながら交通の多い登大路を堂々と渡る奈良の鹿だが、観光客とともに県庁前の屋根付きバス停におとなしく夕立をやり過ごす姿に思わず笑ってしまった。鹿も豪雨は嫌いのようである。
今年はやたらに夏が長く、木陰や小さな流れに固まって涼を求めたり、人と違って自然物、人工物それぞれをうまく工夫して乗りきらなければならず鹿にとっても受難の年。
暑さ寒さも彼岸までとは言うが、ほんとうに彼岸で終わってくれるのだろうか。

不満

冷房につぶれし声の読経かな

冷房を使わなかった夜は二回ほど。

九月も半ばを過ぎて三十五度もあるような日がつづく。
寝室のある二階は昼間暖められるので夜に入っても三十度をくだらない。
もともとエアコンの空気は苦手で、目が覚めても喉の調子がでない質ときている。
冷房の季節の間は、どんだけがんばっても朝の勤行の調子が出なくなる。くぐもるような小声でしか唱えられないのがふまんである。

逢魔が時

暗転の空の点描蚊喰鳥

今年は蝙蝠をあまり見ない。

夕に靴の泥をおとしていると、見事な夕焼け。それが東の雲にも及んでいる。
みるみるにくれないが紫になり逢魔が時という頃、くっきりとした蝙蝠のシルエットを発見。今日はやたら高いところを跳んでいる。虫が高いところにいるんだろうか。
ということは明日も雨の心配はないと言うこと?

お茶を濁す

飼猫の喧嘩をさばく夜の秋

山の端に日が沈んだとたんに風に涼しさが加わる。

わずかずつだが秋の兆しを体で感じるようになったのは嬉しいが、昼間の日差しに射られるととてもじゃないが立っていられない。暦では秋だが皮膚感覚ではまだまだ夏のままである。
虫の声も少ないし、水もまだまだ生温い。秋の材料を求めるのは至難の業で、今日の句のように夏の句でお茶を濁すしかない日々である。

あと四日

炎熱もものかは野球少年団

熱中症警報が毎日出される。

それでも少年野球が町内グラウンドで練習に汗を流しているのを見て、ほんとうに大丈夫かいなと心配になる。
意外に本人たちは気にしてないかもしれないし、練習時間にも配慮しているのだろうが、他人ながらはらはらしながら見ている。
そのグラウンドで夏休み最後の子供イベントが行われたようである。こちらは午後5時頃から開始とあって熱中症は心配しなくてもよさそうだが、コロナ禍以来大勢が集まるイベントが久しぶりとあって大盛況のようである。夏休みもあと四日。北海道とは違って冷房化率がここ数年で進んだ校舎だから、休校と言うことはない。気持ちを切り替えて新学期を迎えてもらいたいと願う。

一様

夕風につられスウィング韮の花

放置したままのニラに可愛い花が咲いた。

直径3センチほどの毬のような白い花が可憐である。おりしも夕立の雲が近づいてきて涼しい風が吹き始めると、茎の長さ30センチのてっぺんに咲いた鞠がみな一様に揺れ始める。
見ているこちらも涼しさをいただいたようで、汗まみれで帰ってきた身にも優しい風が吹いてきた。

まともな夕立

二車線をともに突つ込む白雨かな

高度510メートルの標識がある。

気温計は盆地より六度くらい下がってきた。
これだけの気温差があるのはもちろん高度差だけではない。
高度が100メートル上がれば0.6度下がるという算式に従えばせいぜい2、3度の差でしかないからだ。
理由は夕立。おりしも黒雲が前方から盆地にかけて広がっているなと思った途端バラバラと大粒の雨が窓を叩く。たたでさえ事故の多いことで知られる峠の下り道だけに、各車一様に速度を落とし慎重な運転に変わる。
何とか無事に盆地にたどり着いたが、ここも珍しく気温が下がっていた。夕立のあとの涼しさというのもなかなか感じられないでいたが、ようやくまともな夕立に出会えたような気がする。