あちこち招致騒ぎ

リニア招致くすぶってゐて山笑ふ

生駒の山々が萌えている。

鞍部にある暗峠もさすがに萌黄色がまさって、いつもよりよほど明るく見える。
聞くところによると、生駒山はかつて全山どこでも松茸が採れたそうだが、その後の松枯れのため楢や櫟にとって代わられた。が、やがて薪からガスの時代になると手入れもされず大きくなりすぎて、今度は楢枯れの浸食で姿を消すのも時間の問題だという。
そうなると、次は青木などの低い照葉樹の出番となって、今とはまたまったく異なった様相を見せるらしい。
わずか100年ほどのあいだに目まぐるしく植生が変わるとは驚きだが、ここ2、30年のうちにリニアが貫くかも知れず、太鼓から聖地として崇められてきたお山も騒々しいことだ。
騒がしいと言えば、今さら万博だの、賭博場など、都構想など、よそからは冷たい目で見られていることに気づかないのだろうか。

真っ直ぐに育つ

遠足の子らの会釈をもらひけり

一団の行儀のいい学校、そうでもないかなと思う学校。

よく言えば、学校のカラーというものが出るのも遠足、修学旅行である。
集合写真に並ばされるときの時間にもそれが現れる。
さっさと列について、さっさと次のクラスに交替していくのを発見すると、好感がもてる。
待っている列のそばを抜けようと思ったら、列の子らから元気な声を掛けてもらった。
不意のことなので驚いたが、こちらも負けず挨拶を返すことができてほっとするものを感じた。
どこの学校かは知らないが、真っ直ぐに育っている環境に思いをいたすのである。

尾羽うちからし

一山の弁天池にかはせみ来

観光客はだれもが国宝の塔に興味が向いているので、山内の小さな池には興味をもたない。

ただ、かはせみフリークの身には一声ですぐに気づくのだった。
振り向くと、池に突きだした弁天堂のあしもとの細枝に翡翠が隠れたようだ。
雄雌の判別はつかなかったが、この時期は、恋愛時期にあたり、だいたい雌が雄のテリトリーを訪ねて配偶者として適しているかチェックするのだ。
まずは餌をちゃんと取ってくる甲斐性があるかどうかが決め手で、ただ求愛をせまるだけではだめなのである。人間よりはよほど現実的なようである。
職員にたずねてもこの池で翡翠を目撃したひとはあまりいないようだった。
東大寺裏手に大きな溜池がいくつかあって何回か目撃しているので、そちらからやってきた可能性が大きいとみた。
翡翠は夏の季語であるが、求愛の仕草といい、子育ての特徴といい、春のほうがみどころは多い。初夏は、雛まつりといって、巣穴から出てきたばかりの雛たちが枝に何羽も並んで親から餌をもらうシーンが人気だ。八月から九月頃まで、何度も卵を生んでは子を巣立ちさせる。
子育て中の親、とくに雄は餌取りに追われて文字通り尾羽うちからして、気の毒なくらい惨めな姿で同情を禁じ得ないのである。
父ちゃん、がんばれ。

全没

花籠に埋もれさうなる甘茶仏

歯牙にもかからないような句しかできませんでした。

生まれて初めて、花祭りというものに参列しました。
大寺の花御堂は思いの外質素な造りで、天蓋に御座すお釈迦様の前に、盛り花四基だけ。その花盛に囲まれたお釈迦様は盛り花のなかに埋没しそうに小さいのです。
式の最初から陣取った甲斐あって、散華三枚いただいて帰れたのがせめてもの救いです。

地元代表して

耳成のつねよりまろし霾曇

風が強いせいか、黄砂の降り積もりは見られない。

盆地は言ってみれば大きな窪みだから、黄砂も集まりやすいはずだが、ヘルメットのフェイスが叩かれるというほどでもなかった。畝傍も、耳成もすそは靄がかかっているようだが、頭の部分は目視できるレベルで、幾分稜線がいつもよりまろやかである。

花粉症が幾分治まったかなと外出してみたたが、今日は黄砂を含む風のなかに身を置いたためか、泪がやたら止まらなかった。
明日は、結社の吟行を法隆寺でやるというので、地元代表としてがんばってみます。
そう言えば、あすは花祭りに当たる。今まで、花御堂、灌仏にはまったく縁がなかったので、法隆寺仏生会には真っ先に駆けつけようと思う。

花数50万株

チューリップ園で習ひし歌のまま

明日からチューリップまつりが始まるそうな。

馬見丘陵公園恒例の、チューリップだけで何万株あると聞くが、これらが一斉に咲いた丘の景色は壮観である。
去年の暮れの畑の手入れに始まって、寒中の球根植え、そして雑草取りなど多くの人の手が入っていよいよお披露目である。
県立で駐車場も入園料も無料とあって、レジャーランドの少ない当県では大人気で、おそらくこの週末はまわりの道路もひどく渋滞することが予想される。
花粉症がやや緩和されてきたので、来週の平日にでも行こうかと思う。

帰って来いよ

軒の品定めもしたりつばくらめ

番がしきりに声を交わしている。

交わしては、また農家の軒に飛び込んで元の電線に戻ってくる。
どうやら、巣作りに適しているかどうか各家の軒を調べているようである。
家によっては、風にキラキラ光るディスクを吊してあるところもあるが、燕はあまり気にしないようである。むしろ、カラス除けのお守り代わりになるのかもしれない。
近所にも二三日前飛んできたグループがいるので、さて居着いてくれるかどうか。
去年まで雲雀が降りていた宅地にとうとう建て売り物件ができてしまって、今年は雲雀君の声も聞こえなくなって淋しいので、燕君たちが気に入ってくれるといいな。