今風の

携帯電話袂に透ける雪女

いまどき雪女といえば、お化け屋敷くらいにしかいまい。

アルバイトの女が雪女に扮しているが、透けた着物の袂には携帯電話あるいはスマホが滑り込んでいるという。
もう徹底的にパロディ句である。

探鳥かねた散歩

水仙のかしら中して日の溜まり

水仙は太陽の方へ向いて咲くのではないだろうか。

たいがいが日のよく当たるところに植えられているせいか、喇叭が南の方へ向いていることが多いように思える。
誰が号令をかけるわけではなかろうが、兵卒の敬礼に似ているような気がした。

馬見丘陵の鶯はまだ笹鳴きである。初鳴きまではあとひと月くらいだろうか。
今日目撃した鳥。鶯、四十雀、メジロ、コゲラ、ジョービタキ、アオジ、白腹、トラツグミ、ウズラ、鵯、烏、水鳥では大バン、バン、鴨、金黒羽白、真鴨、小鴨、カルガモ、川鵜、青鷺。みな枯れて鳥が探しやすい。

回す

竝びなき独楽の名手は今パパに
紐巻くも引くもほどよく独楽のこつ
投げ独楽の宙へたかだか掌に受くる
投げ独楽の宙に紐解く視線かな
一つだけ勝ち越すほどの独楽の友
左利きの流れるやうに独楽回す

何年も見てない。

道路で子供たちが独楽遊びしている姿を。
独楽遊びといっても色々あって、俳句では競技独楽の句が多いが、自分の経験では普通の回し、投げて手のひらに受けるなど単純な遊びに終始していたような記憶がある。
一個の独楽を大事に使ううちに、心棒が緩んできたり、削れてきたり。そういうのを手を入れながら一冬遊ぶのである。誰もが好きな独楽を一つは持っていたものだ。

太郎を眠らせ

冬山の太郎次郎を町に駆る

一年に一度あるかどうかの美しい大峯を見た。

今日のように、一日中晴れて空気が澄んだ日で、暮れる前のほんのしばらくの間だけである。
というのは、自宅からみる昼間の大峯は逆光となり、山稜が黒々と見えるだけで山容、襞の重なりが見えないからである。夕日が大峯に当たるとき空気が澄んで視程がきけば、ようやく山の北西側部分の全容がくっきりと浮かぶのが見える。
今まで、台形のように一体に見えた弥山、八経ヶ岳が実は全く別であること、いろいろなピークが重なってどれが女人禁制の山上ヶ岳なのか分からなかったのが今日はそのピークがはっきり認めることができた。想像以上に凸凹した状態の山が幾重にもつながっているのだ。

奈良県は吉野川を境界として南側がすべて山である。県土の80%以上はあるんじゃなかろうか。山の間を塗って集落が点在するわけだが、どの村も人口減、村落消滅の危機に瀕している。
廃校が相次いだり、何百年も守り続けられてきた伝統行事が若い人たちがいなくなって維持できなくなったり、そんなニュースや話題が夕方のローカル放送でいくつも流される。同じような話では、男鹿半島でも若い衆がいなくなった集落では、高齢者が鬼の役をして各戸を回っているという。おそらく全国レベルでこんな事態がすすんでいるのであろう。

掲句の冬山は単なる冬山ではない。生きることが切ない山の暮らしの象徴である。雪に降り積もられる屋根の下はどこにも、もう子供の姿は見られない。

さっぱりする話

蒸タオルされてうつつの春隣
部屋に綱打つ日さだまり春隣
真新しき明け荷三つの春隣
房総へフェリーそろりと春隣

毎日「寒」の句ばかり続くので気分転換。

一足早く春を呼んでしまおう。
というわけで、散髪屋でさっぱりする話。
最近は千円カットなる店が増えたが、シャンプー、ひげ剃りのサービスはなく、ほんとにカットするだけの店だ。
シャンプーがないというのはほんとに困りもので、細かい切りくずが首筋などから入った日にはかゆくてたまらない。
やはり散髪屋となると、たとえ子供でも耳の周囲、首筋、額の生え際、眉毛まわりなどはちゃんと剃刀を当てるのが普通だったし、シャンプーも丁寧に二回してくれるのが普通であった。
窓から暖かい日差しも入って、暖房がよく効いている上に、湯を沸かしたりタオルを蒸す蒸気もあって湿度も充分とくれば、そこはまるで温室である。蒸しタオルされてしばらく放置されてる、ほんの短い間にもすぐに睡魔がおそってきて、あとは半分眠ったまま顔を剃られている。終わってさあと椅子を起こされても、そのあとのシャンプーの気持ちよさが続きまだまだ魔術は覚めない。
関西ではシャンプーの最後はさあと顔を自分で洗うように促されるが、ここらあたりでようやく頭がすっきりしてくるという次第だ。

横綱昇進伝達式と口上。田子の浦部屋にはもう春が来たようです。

降りみ降らずみ

つぎの日に雪消え残る真土かな

夜の間に降った雪が僅かばかり解けずに残っていた。

雪は芝や石の上に落ちても積もることはあまりない土地だが、今回は花壇や菜園など土が露出している部分に降り積もったようである。その理屈はよく分からないが、雪をふんわり受け取るような土の柔らかさや、逆に土が雪に保護されているかのようにも思えてくる。

今日も一日雪が降ったり止んだりする天気だったが、終日気温が低かったせいか夕方になっても黒い土の上に積もった雪は解けなかった。