薄暑

胸つきの回廊すがし若葉風

長谷寺本堂へ行くには、大門から入ってすぐに登廊をたどることになる。

その両側に牡丹園が広がるわけだが、長い直線をしばらく登ると今度は各一回ずつ右に折れ左に折れして本堂に近づくことになる。その最後の廊ともなるとこの時期うっすらと汗ばんでくるほどである。まさに「薄暑」という言葉がぴったりする感じだが、そういうときに廊を横切るように風が吹いてくるとほっとする。
上へ行くほど視界が開けているので、見渡せば左右はいつの間にか若楓。本堂の舞台に登れば山全体が見渡せて新緑の中に堂宇の瓦がきらめくようにまぶしい。

もし、長谷寺に行くならこの時期が一番のお奨めになる。

スマホ写真

牡丹園ペットとともに自分撮り

今日は長谷寺吟行。
長谷寺の牡丹
牡丹守のお話では今年はここ数年でも最高の出来だそうです。そのせいか、2万本近くの花の艶やかなこと。毎日のお世話もあって最高のコンディションを維持しながら、あの長谷の谷間の斜面に段々と牡丹園が展開するのですから、下からも上からもよく見通せて溜息がでるほどです。

今の長谷寺は牡丹の他にも、石楠花、芍薬、若葉、鶯、竹の秋等々、句材が目白押し。句材多くとも佳い句が生まれるとはもちろん限らないわけですが、時間をかけて燻せば満足できるものに近づけるのではないかと思えてきます。

掲句はとても俳句会のレベルでは採用とならないのですが、犬を高く抱きかかえながら若い人がスマホをかざして自分撮りしているのが大変微笑ましく即興で詠んでみたものです。

青山高原

高原に居並ぶ風車遠霞

今日から夏。

一昨日のことだからもう春も終盤で、その日は奈良盆地も伊勢平野も春霞にけぶって視界はいつもの半分もないくらいだった。伊勢本街道の新緑の峠から長い道のりを下りてきて、かすかながらも風車群が遠くの青山高原の上に見えたとき、ようやく伊勢平野に出たんだと思った。

宇陀の榛原から約2時間、山間ドライブは悪くはなかった。再奥の市場で春の山菜をしこたま手に入れることもできたし。

奥津城

救急車よぶに半刻余花の郷

鰻を食いに津まで。

高速道路で往復するだけでは能がない。新緑の時期でもあり、一度は通らなければと思っていた伊勢本街道経由でだ。
これが大正解。目にしみる新緑とはまさにこういうときを言うのか。
とくに、ちょっと寄り道した北畠神社に隣接する「北畠氏館跡庭園」はいかにも武家の庭らしく剛健そのもの。池をめぐらせてその護岸の石組みといい、庭園の石群がバランスよく配され、それら石群らの上には楓などの新緑が影を落としていて全体が緑がかってみえる。

枯山水といへど若葉明りせる
若葉して武士どもの館跡

伊勢本街道とはここで別れて、かつての名松線沿いの道路に戻ろうとしたら、県境の方から来たのであろう津ナンバーの救急車が来て、その後方を伴走する形となった。ところが、行けども行けども救急車は目的地に着かないらしい。とうとう旧久居警察署まで一緒することになった。その間約30分ほどだろうか。
おそらく旧久居市内の病院に向かったのであろうが、呼んでから迎えに来るまで30分として、異常があってから救急病院にたどりつくまで往復に最低1時間以上もかかる計算になる。平成の大合併もいいが、過疎地医療の深刻さというのは解決するどころか、さらに悪化しているのではないかとさえ思えてくるのだった。

疑はぬ廃線復活落花掃く
廃線の鉄路かげろふ奥伊勢路
廃線を糾ふ道の余花しげし

落剥

風来たる枝より揺るる桐の花
桐の花あたりを払ふ高さかな
抜きん出て雑木見下ろす桐の花
櫛の歯の欠けるごと落つ桐の花
竹とんぼ舞ふやうに落つ桐の花
落ちやうの落下傘めき桐の花
ラッパ口下に舞落つ桐の花
その形の落ちて知るなり桐の花
桐の花落つるやすでに萎えゐたり

昨日二上の麓を走らせていると、遠目にも桐の花が何本かよく見えた。

用事を済ませた後で、再びその場所に行ってみると二上パークという道の駅があって、その奥の「二上山ふるさと公園」に大きな芝生の丘が広がっており、周囲の雑木林から抜きん出るようにして桐の花が咲いているのだった。
落花した桐
そばまで行って見上げていると、ときどき音もなくハラリと落ちてくるものがある。長さ5、6センチのラッパ型をした桐の花で、その根元のほうを下にしてくるくる回転するように落ちてくるのだった。あらためて木の下を見てみると、すでにかなりの数の花が散り敷いていて、そのどれもが形を維持するのも難しいようにげんなりと萎びている。落花直後のものであってもすでにラッパは閉じられるようになって張りがない。
木の上にかたまって咲いているのを見るだけでは、一つ一つの花がこんなに大きいとは知らなかったし、なにより大変豪華に見えていたのが、いざ落ちてみると意外なほど情けない姿をしているのを知ってその落差の大きさに驚くくらいだ。
桐は昔から葉が落ちるさまに凋落を重ねて見てこられたが、花の落ちるのも負けず落剥の思いを深くするのだった。

藤棚

花蜂の無害もあると教へらる

春日大社万葉植物園の藤は今が盛り。

ただ最初は、その蜜を求め尻が丸くて大きな蜂がぶんぶん飛んでいて思わず腰が引けてしまう。係員から「花蜂と言って刺さないから大丈夫ですよ」と教えられ、ひとここちつく。一般には「クマバチ」と言えば分かるだろうか、それくらいの大きさ。目の前の花房のまわりを飛び回るので、お尻がまん丸でずんぐりした様子がよくわかる。
とりわけ香りの強い「麝香藤」という種がたくさんの蜂を呼び寄せていたのが印象的である。

氷室神社献氷祭

献氷の細工透かして若葉陰
献氷の細工を染める若葉かな
かき氷日がなふるまひ献氷祭

今日5月1日は奈良市氷室神社の献氷祭。
氷室神社献氷の龍

奈良時代に春日野に氷室を設け、それを祀ったのが起源という神社らしい。
この日は全国から製氷冷凍業界の人たちが集い、この年の天候が業績に幸いするように神前に氷柱や、なかには写真のように龍の氷細工が献じられていた。
溶け始めた氷から点々としずくが滴って、今日は気温も25度近くにのぼったらしい。境内では無料のかき氷に列ができるほどで、外国人観光客たちも珍しそうにして食べていた。

神事もいろいろあって、夜には氷の献灯もあるほど一日中続くお祭りだが、万葉植物園の藤棚ももう一つのお目当てなので長い時間はかけられなかったのが心残りといえば心残り。