身をゆだねる

厳寒といふ眼に見えぬ同胞よ

今夜また冷えるという。

厳寒というものがいるわけではない。ただ、みんな同じ星に同時に生きているだけだ。
だからうまくつき合っていかなきゃね。

鋭敏

冬籠耳は外界向いてゐて
冬籠研ぎ澄まされし両の耳

雪とか何かよんどころない事情あって一部屋に籠もっている。

まわりには読みたい本を積み上げて、まるで書物に埋もれたような毎日である。
それでも外からの情報は恋しく、新聞、テレビのニュースは欠かせないし、書を読んでいても新聞や郵便配達の音には敏感になっている。

クイーンをめざせ

取られては機嫌損ねる歌留多取り
全札を取らねば済まぬかるた取り
虎の子を取られべそかくかるた取り
幼子に泣かれて終るかるた取り
ひらがなも読めぬ児に買ふ歌留多かな

クイーンというらしい。

競技かるたの女子チャンピオンの称号である。全国予選、挑戦者決定戦を勝ち抜いた挑戦者と前年クイーンが、毎年1月に戦って勝ったものがその年のクイーンとなる。ニュースでしか見たことはないがそれは激しいものであるらしい。
掲句はそんな本格的な競技かるたではなくて爺と幼子のいろはガルタ取りである。小さい児は何でも自分が取らねば機嫌が悪い。

サイクリングの季節

自転車に空気いっぱい春隣

真冬でも走れないことはない。

ただ、サイクリングはやっぱり春のものだ。
冬の間しまい込んでおいたバイクの出番に備えて、洗車したり、チェーンにオイルをさしたり、タイヤにも空気をたっぷり入れてやる。
あとは天気図を見ながら風の少なそうな日をひたすら待つ。空気はまだ冷たくても自転車日和。春はそこまで来ているのだ。

場所の楽しみ

三役の力士登場日脚伸ぶ

冬至からすでに一ヶ月以上経った。

最も日が短い頃は5時にはすっかり昏かったのが、いまでは場所の三役登場の頃まで明るさが残るようになった。日が短くなるたびに気が重くなるようであったのが、ある日を境に日が伸びてくるようになると気分まで晴れるような気がする。まさに一陽来復であり、つくづく日の光はありがたいと思う。

さて、初場所だがダントツの横綱に早々と優勝を決められ、あとは全勝優勝成るかどうかというのはいかにも侘びしい。せめて明日は豪栄道に勝ち残ってもらいたいと願うのであるが。

雲の動くとき

凍雲の底を切り裂く日矢太き

厚い雲が割れて日がさした。

まるで雲の底が抜けたみたいに、そこからいく筋かの日差しがこぼれる。日矢だ。やがて底の縁が金色に輝きだすと、耳成の辺り、大和の盆地の一角がいっぺんに明るくなった。
そのうちみるみる厚い雲が動き出して、どの雲にも夕日があたり夕焼け模様を描き出した。

宇陀の榛原からの帰りの光景だ。

海岸の花

ポスターのままの水仙眼の当たり
段丘を背に水仙の港かな
段丘を背に水仙の風除ける

水仙の名所というのは決まって海浜である。

よく知られるところでは、越前、爪木崎、潮岬など。どこも水仙以外には目を遮るものがなく、水仙の原がそのまま海へなだれ込みそうな勢いである。
綺麗なものを見て、美味いものを食えば旅の思い出は深いものになる。