執筆も客をむかふも炬燵かな
2DKの公団アパート。
六畳の居間の半ばを占める炬燵に先生はいつも座っておられた。
そこへ同じ市に住む小生が担当となって毎月玉稿をいただきに伺うのであった。
先生は「最後の文士」と言われるような武士然とした佇まいとはうらはらに大変好奇心が旺盛な方で、若輩の私にも次から次へと質問を浴びせてこられあっという間に二時間ほどが過ぎてしまうのだった。
若い頃騙されてサハリンの缶詰工場に売り飛ばされたり、左翼思想に傾いたかと思うと弾圧であっさりと転向してしまうなど波乱に富んだ人生だが、その愚直ともいえる生き様が先生の魅力となっていて、とくに講演会などでは諧謔に富む話にだれもがその人となりに魅了されるのであった。
一作家の本を題材に毎月一作品、二年間原稿をいただいた「名文鑑賞」という欄が、その後福音館書店から「文章教室」という著作で出版されたのは私にとっても忘れられない思い出となった。
先生の名は八木義徳。平成11年11月没。享年89。
検索すると先生の年譜があったので紹介する。