98%

大根煮の味の沁みゆく月の蝕

午後6時過ぎほぼ皆既月食となった。

ほぼというのは食の割合が98%だというから、かぎりなく皆既月蝕に近い。
家人は夕飯の仕度の手を止め、夫婦揃って二階に上がり東の空を探しに行く。
久しぶりにクリアに見える夜だ。一等星はより明るく、宵の明星も際だって明るい。
月の真下に星よりも明るい灯がみえるがあれは名古屋方面からきた旅客機のポジションランプであろうか。小刻みに揺れながらこちらに向かってくるがなかなか大きくならない。ほとんどこちらに一直線に向かってきているのであろう。どこかで右旋回しながら大阪方面へ降りてゆくにちがいない。

総太り

大根をもらつてくれろと差し出さる

沢山できすぎたからと立派な大根をもらった。

おそらく総太り大根の仲間であろう。
青首が新鮮そのもので、尻尾までしっかり太く、中ほどは三浦大根のように太く太くふくらんでいる。上々の出来である。今年はなぜか大豊作だという。娘さんや孫たちに送ってもなお余るのだという。
こちらはこの日虫にやられて散々な大根をあきらめて抜いていたというのに。

家路

学舎の時計にそそぐ冬日かな

一斉下校の時間だった。

校舎の壁に掲げられた時計を見るとちょうど三時である。
ボランティア(?)に誘導された長い列が三叉路で大きく別れ、上へ登る列と下へ下る列になった。
三日続きの小春日で下校の子供たちの表情もこころなしか柔らかい。
こちらは間引きの大根を下げて家路を急ぐところである。

小六月

鳩五羽の束の間落穂ついばみし

いっぱい落ちているからと言って長居はしないようだ。

掛稲がその場で脱穀されて藁くずが積み重なるようになった田に、今日鳩が降り立ってしきりに啄んでいる。どうやらそのなかに落ち穂がいっぱい残されているのだろう。
昨日今日と小春日がやわらかく日が当たる時間は心地いいほどだが、まだまだいい天気はつづきそうである。小六月とは言い得て妙である。平和な光景に心和んだが、明日もまた落ち穂めざして鳩がやってくるかもしれない。

無心の時間

小気味よく土噛む鍬の小六月

日中は風もなく今冬最初の小春日となった。

午後の3時間あまりの農作業。来春に向けての畝づくりなのでとくに急ぐこともなく、マイペースで無心に鍬を入れる時間のありがたさ。嫌われ者のヨトウムシがいくつか出てきたり、何の虫なのか冬眠中の大きな蛹が出てきたり。
ちょっと冷えてきたかと思えばもう日が林に沈むところで。何も考えることもない無心の時間はあっという間に過ぎてゆく。
心地いい疲労だけが残った一日だった。

ずた襤褸

スニーカー裏に落葉のつきしまま

急に引っかかった。

靴底のつま先部分が剥がれそうになったのである。
安物の靴だけど足にあった履きやすいもので、裏が剥がれるのはこれが二度目である。
履き擦れてすっかり薄くなったけれど、なんとか接着剤で貼り合わせたい。気に入ったものは襤褸になっても捨てられない性分は変わらない。だましだましまた使うのである。

最後の砦

ざりがにの避難先なる冬菜畑

稲のなくなった田の生きものたちが畑に混入してくる。

いちばん多いのがイナゴ。これがバッタに混じってキャベツの襞に隠れるようにへばり付いている。
なかには絶対畑にいるはずのないアメリカザリガニの骸がころがっていたり。
冬眠するカエルや田螺(も?)などの水中生物をのぞき、住み場所をなくした生きものたちが最後の砦に隣接する菜園に活路を見出だそうとしたのだろう。