2020年の句(後半)

10句のうち、実景に着想を得たのは冒頭の句だけ。
それだけ、外に出てないという年でした。殘りは過去の記憶やテレビなどの映像、そしてそこからの連想などで生み出したものばかりですが、それなりにまとめることができたのは幸いでした。
結社では新年から句会再開となりますが、個人的には当分自粛しておこうと考えています。

豊年蝦田水に透ける半夏生
一片のぜいご舌刺す背越鯵
腰の立つものはこぞりて祈雨踊*
腰越の沖浪強し虎ヶ雨
南高梅笊にひろげる朝曇
舫ひ解く不漁覚悟の秋刀魚船
秋刀魚焼くあの戸この戸の青けむり
棕櫚を剥ぐ村の最後の一人かな
三輪山に尻を向けては麦を蒔く
タクシーの上席占むる熊手かな

*印は結社誌「雑詠鑑賞」の採用句。

2020年の句(前半)

恒例の振り返りです。
今年のビッグニュースは何と言っても結社880号(8月号)の巻頭掲載でしょう。
海鮮市場でひときわ大きな声で客を呼ぶ売り子を詠んだ「浅蜊売」の句ですが、コロナ禍で句会中止となるなか、夏雲システムを利用したウェブ句会で数多く詠めたことが背景にあります。
後半にはZoomを活用した合評会にも発展し、同好の士とも深く交わることができたのはありがたいことでした。

雲湧いて畝傍山そばだつ初景色◯
春泥に盛る地祝の砂の山
襲津彦の墳やもしれぬ野に遊ぶ
野遊のシャトルは風に遊ばれて
水盤の湯気ほの甘く花祭
禁足の杜の一本桜かな
柳絮とぶ采女入水の池にかな
おまけ汲む伝法肌の浅蜊売◯
股覗きするあめつちの夏霞
宿下駄の鼻緒の濡るる蛍狩

◯印は結社誌雑詠鑑賞で取り上げられたもの

視線

来る見えて視線集むる嚔かな

はなみずもくしゃみも、それに咳も。

人前では思わぬ視線を集め顰蹙をかう仕草だが、どれも自分の意志とは関係なく出るものなので抑えようがないのは困りものである。
街へも出て行けない。

保証

ステンレス物干し竿の濃霜かな

屋根が真っ白。

うっかり触ればくっついてしまいそうな物干し竿。
日がのぼるとやがて音もなく庇から霜雫がこぼれる。
こんな日の昼間は風もなくて、暖かさは保証される。

ランデブー

夕刊の落つる音聞く冬至かな

夕刊を読んでいて気付いた。

今日は冬至だと。
木犀、土星のランデブーを見なきゃと思っているうち冬至の夜を迎えることとなってしまって、短日を実感することなく終わってしまったのは心残りである。
そのランデブーだが、7時頃外に出てみてもあれれ?見えないぞ。たしか空は晴れているはずだが。低すぎて盆地からだと無理なのか?
明日はもう少し早く見てみよう。

協力

煤逃の不要不急といふべきや
煤逃の逃げ場のあらずなりにけり
煤逃の流行りやまひを憂ひけり

いつもなら映画やゴルフ、あれこれ口実を設けてはとんずら。

どうやら今年はそうもゆくまい。
基礎疾患をかかえる老いの身には、行く当ての会場が混み合ったりつき合ってくれる友もいなくては、行き場も困るにちがいない。第一、煤払いから逃げるのであるから、これはもう立派な「不要不急の行動」というものである。これ以上の医療崩壊や家族や親友を危険にさらすわけにはいかないと戒めるのが常識ある大人の態度であろう。
而して、健康のためにも煤払いはすすんで協力した方がいいのである。

結球

結球の固く葉を巻く霜夜かな

霜が降りるようになると冬野菜がどんどん甘くなる。

白菜だってきゅっと葉を巻いて結球が太るのである。
このままでは死ぬと思うから糖分を濃くして身を守ろうとするのである。
これら冬野菜をいただく我らにとって、この寒さには感謝こそすれ恨んではなるまい。