胸張って

満天星の紅葉見に来よ小海線

ドウダンツツジが秋真っ盛り。

今年は殊の外赤が濃い。
何年か前に清里の駅前の植え込みにあったのを見たときはたじろぐほどすさまじい深紅だったが、規模で比較にならないわが家でも胸を張るかのようである。
三本あるうちで、直射日光がいくぶん少なめな場所にあるのが一番滑らかな紅葉具合。やはり、適度な湿度があるほうがいいとみえる。

奪われた楽しみ

木枯の湿つ気をびたる朝のうち

関東、とくに上州は空っ風。

乾いた北風はほんとに冷たくて耳さえ切れそうなくらい。
ところが、この奈良盆地というのはそんなきれっきれっという感じが少ない。
なぜなのかなあと考えてみたら、それは湿度の高低に関係しているのではないかと思うようになった。
雲だって、晴れていたとしても当地の雲は厚くて黒く、日射しは弱く感じる。それは蒲団を干すという面においてとくに感じることで、関東のようにほかほかとはなかなかならないのだ。蒲団を干す楽しみが奪われたといおうか。
アルプスや丹沢などのような水分を奪ってくれる高い山がないことの宿命か。

厚切りトースト

トーストの焦げ目しつかり柚子のジャム
種残る柚子のジャムとはなりにけり

いろいろな大きさの柚子をもらう。

早速ジャムに煮てもらう。
ときどき種も混じるときがあるが、やや酸味のきいたジャムはあっさりしていてホカホカの厚切りトーストにぴったりだ。それもしっかり焦げ目のついたトーストがいい。

サイン

ぶらぶらと食べ頃サイン吊し柿

3週間以上は経過した。

そろそろ取り込んでいい頃だ。
百匁柿というだけあって皮をむいてもずしりと重量感のあったのが、水分がずいぶん抜けて今では体積でいうと四分の一くらいに縮み、今日の小春のわずかな風にも揺れるくらいだ。
まさに、天日干し完了のサインだろう。

一将校成りて

犬の尾の触れみ触れずみ枯尾花

絮もほとんど飛んでしまった。

万骨枯るといった風情だが、意外にしぶとくて簡単には姿を消さない。へたすると冬だって越してしまうほどだ。
ま、しかし、枯れたのなら潔く土になったほうがいいと思うがどうだろうか。

「降りみ降らずみ」という言葉はあるが、この用法は許されるかどうか。

ゆかしい

女子大はメタセコイアの枯れっぷり

正門を前景にメタセコイアの大木がそそり立つ。

この時期になると、黄葉して異彩を放つことになる。
奈良女子大のシンボルツリーともいえるこの木は、行くたびに仰がずにはいられないほどの存在感がある。
和名をアケボノ杉というらしいが、やはりメタセコイアの名が通っているし、異彩を放つ姿に対してはそのままで呼んだほうが相応しいように思える。
卒業生の方にとってどんな存在なのかは知るよしもないが、通りがかりのものには強く印象に残る何ものかがある。
来月になると葉をすっかり落とし、その均整の取れたシルエットがまたゆかしい。

走り去る

しぐるるや傘だれも持ち合はすなく
持ち合はする傘なく宇陀の初時雨

宇陀の時雨だった。

句座がはねて外へ出たらぱらぱらと来たのだった。先ほどまで窓から冬日がさしていて、意外に温かい日だなと思っていたので意外だった。山がちな地形を縫って、走り去ってはまた通り過ぐ。そんな繰り返しが今年も見られるのだろう。