挙げ句が掲句に

押売の来意に覚める昼寝かな

こう暑いと昼寝が欠かせない歳になってしまった。

短時間ならそうでもないが、いったん寝ると熟睡する性質のせいか多少の罪悪感はあるものの誘惑には勝てないし。
一応枕元に句帖やら文庫本などを並べてみるが、ものの十分もしないうちに深い奈落の底に沈んでゆく。

ここ数日などは湿度が低いのでエアコンの助けもいらず、扇風機の風で十分快適に眠れているが、好事魔多し。
チャイムに起こされてドアフォンに出てみると、太陽光発電はどうだとかこうだとか。挙げ句が掲句である。

粋と涼しさ

髷高く結うて涼しき女かな

祭髷と言うのだろうか。

男の祭髪が粋とするなら、女の祭髪は瀟洒とも言えようか。
粋も瀟洒も涼しいにつながる。
この「涼しい」というのは本人にとっての「涼しさ」では勿論ない。周りを涼しくさせてこそ、粋であり、瀟洒なのである。
自分だけが涼しくていいというのなら、それは単なる野暮というものである。

夏のトリコロール

シーサーが守る家の垣の仏桑花
貝殻の道は海へと仏桑花
空の青珊瑚の白や仏桑花

「仏桑花」は「ハイビスカス」の傍題。下五に据えるにはこちらのほうが良さそうである。

ハイビスカスの鉢は多く販売されるが、この花だけは南の島でないと絵にならない。
縁日などで買ってきても、あの大降りで派手やかな風情というのは、家の小さなスペースにはどう見ても似合わないのだ。
珊瑚や貝殻を割砕いた白い道が島を縦横に走り、観光用の牛車がのんびりと進む。その両脇の垣はハイビスカスで覆われていて、道路の白と花の赤と空の青が作り出す強烈なコントラストがあってこそ生きてくるのだ。

風を造る

三段に造り滝して風三つ

造り滝は贅沢な趣向である。

それが三段となればなお豪奢なものとなる。
一般家庭ではまずお目にかかれないだろう。ホテル、有名庭園などに限られる。
造り滝に懸けられた、目にもまぶしい紅葉の葉を揺らして風が常に生まれている。

生命線

岩清水是が最後の補給箇所

skyblueさん大ファンの陽希君の番組だったか。

百名山、あるいは二百名山を人力のみで一筆書きで踏破するというとてつもないアドベンチャーだが、ある意味水との戦いでもあったようだ。
あらかじめ用意した水が尽きるときは途中補給が欠かせないが、場合によっては体力消耗が激しくて想定以上に水も消費してしまうときもあって、ハラハラさせられた。
掲句は岩清水だが、水の補給ができなくて雪渓の雪をボトルに詰めていた場面があった。

小道具に落ちたか

電気屋の銘が入りたる団扇かな

最近は広告で団扇を配る店も少なくなった。

コストの問題もあるだろうが、それよりも団扇自体があまり使われなくなったせいもあるだろう。
ビルや家はエアコンが完備され、最低でも扇風機が一家に何台もある世となれば、扇子は持ち歩き可能で一定の立ち位置というか用途はあるとしても、団扇は祭のアイテムに過ぎなくなった感が強い。

晩夏の空気

香煙の仏間抜けゆく朝涼し

昨日今日と湿度が低いのに救われている。

梅雨明け宣言したばかりというのは、普通朝から強い日がさして肌で猛暑を予感するものだが、どうしたことか。
暦ではなるほど梅雨が明ければ「晩夏」ということになるのだろうか。
多分この朝の涼しさは長くは続かなくて、蒸し蒸しする日はまたやってくるだろうが、しばらくは恵みの涼しさを享受しよう。

仏壇に供えた線香の煙がどんどん流れていく。涼しいのは湿度だけではなく、乾いた風が家を吹きぬけているせいでもあろうか。