吾妹の十日

老いぬれば美しき悪しきのおぼろかな

母がことあるごとに繰り返していた昔語り。

とくに覚えているのが、生後十日で命を落とした妹の話である。
大地震が襲ってきて家が倒壊し、座敷奥に寝かせていた赤子を連れ出すどころか、自分の身ひとつ守るのに精一杯だった様子を何度も聞かされた。
当時、医者にも見放されるほど衰弱していた私が、本来妹が飲むべき乳をふくませたら忽ち回復に向かったとも。

晩年になって、赤子を救えなかった悔恨の言葉は少なくなったようだ。
ただ、今も生きていて、こたびの熊本地震を聞いたらばきっとまた昔に戻って、地震の怖さを繰り返し語ったことだろう。

気付薬

停電の闇に沈丁それと知る

はっと吾に返るときがある。

考え事にふけっていても、この香りだけは特別である。
どちらかと言えば風のない日に強く匂うのだが、漆黒の闇のなかでもそれが漂ってくる方角はすぐに知れる。
その日の気分によっては、インパクトが強すぎて敬遠したくなるときもあるが、総じて気付け薬のようなレフレッシュ効果があるようだ。

車上で夜を明かす人たちに安らぎあらんことを。

故郷の変わりよう

救援の手の及ばざる春の闇

まるで陸の孤島だ。

道路、鉄道が縦横に走って本来はアクセスに不自由しないところだが、それが断ち切られたときの脆さを見た。
圧倒的に足りない避難所、水・食料。
車上での避難生活にも限度があろう。

このたびの震災の復旧もまた想像をはるかにこえる時間が予想される。
東日本震災から五年。列島は地震の活動期に入ったと言われるが、この数年のうちにまた大きな地震が発生するのだろうか。

熊本出身のアナウンサーの、ときに胸をつまらせたようなアナウンスに打たれた夜だった。

国宝無惨

春愁や活断層の恐るべき

新幹線はまだしも、高速道・自動車道、JRが寸断されている。

経済活動はおろか、救助活動の大きな妨げになっているのは痛ましい。
また、国宝、重文クラスの建造物が無惨な姿をさらしており、地震の破壊力の凄まじさが生々しく伝わってくる。
枕を高くして寝られない人が何万人といて、余震活動の休息の目処も見えないとあっては不安は如何ばかりかと。

列島穏やかならず

列島の北春嵐南地震

「ない」と読む。

地震は恐ろしい。
何時、何処で起こるか誰も分からないからなお怖い。
一瞬にして巻き込まれると逃れられない恐怖がある。

それにしても、断層が動くメカニズムとは分かっているようで、実はよくわからないのだ。
断層がずれるから地震が起きるのは分かるが、なぜ断層がずれるのか。
そのあたりの説明があればじっくり聞かせてもらいたいものだが。

鳴り物入りで

風船も鳴り物入りも応援団
七回を待たず風船放したる
銀傘にはぐれ風船舞い上がる
風船のホームチームを鼓舞したる

いつも顔をしかめさせられること。

あの風船飛ばし。ロケット風船と言うそうだが、芸人がケーキを投げあってふざけているような、やりきれなさを感じるのは私だけだろうか。優勝でもしたときなら、まあ許せるかとも思うが。
もっとも、あのチームの試合は見ることもないのでストレス感じることもないのだが。

応援と言えば、あの喇叭、鳴り物入りも、ただの騒音にしか感じないしね。