便法としての傍題

外来種混じりて咲ける千種かな
外来種混じり咲くのも秋千種

草野からにょっきり可愛い萩が顔を出している。

よく見ると、盗人萩だ。例の三角形の種が服についてなかなか取れないしつこい奴だ。
季題「秋草」には相応しくない花だが、今や在来種だけの野原なんておそらく全国見つけるのは困難だろう。
「千草」は「色草」同様「秋草」の傍題で、四文字を下に用いるため「秋千種」として5文字に納めたもの。
このように、傍題をうまく組み合わせるのも字数調整する場合の便法だ。

補)添削が入り、シンプルで理屈っぽさが無くなりました。

秋日和

露けしや頭部欠けたる白鳳仏
盗難の模造仏の秋思かな

久しぶりにいい天気。

秋空のもと、白鳳時代の仏さんを中心とした「白鳳展」に行ってきた。
人皆考えることは同じで、混雑するんではないかと思っていたら意外に空いている。
おかげで一点一点じっくり見学できたのには助かった。
もっとも印象的だったのは、法隆寺の夢違観音がごく間近にみられたこと。まさかこんな貴重な宝を、手を伸ばせば届くような距離に無防備に展示しているとは。ほかにも有名な仏像が数多く出展されていて、どれもがその息づかいが感じられるほど近い。

仏教伝来以来100年、一斉に花開いた白鳳文化の粋を集めたこの展示は文句なしに素晴らしい。

フラッシュバック

陸(おか)からの救助断たれて秋出水

4年前の光景がフラッシュバックした。

家人に知らされてテレビのスウィッチを入れたら、鬼怒川決壊の空からの生々しい映像を伝えている。
鬼怒川が利根川に合流する手前で、あたり一帯が水没している。
当地でも昭和57年に王寺駅一帯が水害に見舞われたことがあり、その原因も大和川の勢いがまさって流入がせき止められた支流から溢れたものだった。
午前中のニュースを聞いていてそんな話を思い出して、同じようなことが起こるのではないかと心配していたら果たしてその予感が当たってしまった。

利根川と言えば、いつもの散歩コースにしているキヨノリ君の方で被害がなければいいんだが。

芭蕉四態

地に触れて破芭蕉とはなりにけり
芭蕉葉の己が重みに耐へかねつ

大きな芭蕉の葉が垂れている。

自分の重みで先端が地面に突くほど折れ曲がり、それと同時に葉脈に沿って裂け目が入り、破れ始めているのだ。
葉の色が青々しているだけにその痛々しさは目に沁みる。

芭蕉と唐招提寺とは名句「若葉して御目の雫拭はばや」で有名だが、実は寺務所奥にある芭蕉の葉があって、毎回訪れるたびに人知れず自分だけの吟行コースに入れているのだ。「芭蕉」は秋の季題。傍題に「芭蕉葉」「芭蕉林」がある。青々と広がった風情のどこか脆弱な感じを詠むわけだが、それに裂け目が入って破れさらに哀れをますものを「破(やれ)芭蕉」で同じ秋の季題。蓮が破れたのを「敗荷(やれはす)」(破れ蓮)と言うが、これも晩秋の季題だ。
台風や雨が続いていたので、あの大きな葉が揺さぶられでもしたのだろうか、すでに何枚かは破れかかっていたのを詠んだもの。
初夏には「芭蕉巻葉」で玉を結んでいるもの、夏は「芭蕉の花」があるがこれは地味な花だし、タイミングがうまく合わないとなかなか見つけられないかもしれない。それとも南国の方へ行けばあちこちで見られるのだろうか。

手に取る

赤のまま今日はも少し遠くまで

犬蓼の花である。

昔懐かしい花を見つけたので、ちょっとしごいて手のひらに乗せてみる。
ちょっとほのぼのした元気をもらったので今日の散歩はもう少し遠くまで延ばそうと思った。

ただそれだけの意味しかないが。

秋急ぐ

飛鳥田の休む一枚虫の原
恋ふる歌それとも凱歌虫の原

飛鳥の田は穂がようやく立ってきたばかり。

八月後半の冷夏につづいてこれだけ長雨が続いているので、実入りがどうなるのかちょっと心配されるところだ。
秋が急速に進む一方で、虫たちも恋の成就を急いでいるかもしれない。休耕で立ち止まると、生い茂った雑草の中で、少々の雨にかまわず色んな虫たちの声が聞こえてくる。

飛鳥京跡苑池発掘現場へ

芋の露遠き峰には雨後の雲

雨だが、予定通り飛鳥京跡苑池説明会へ。

いつもなら行列を作るくらい見学者が多いのに、雨のせいか、それとも苑池発掘といってももう目新しくないせいか意外に人が少ない。スタッフの皆さんも拍子抜けされたんではないだろうか。10時のあとは11時、次は13時というふうにセッションも少なめ。おかげでゆっくり見学できた。
今回の発掘対象は飛鳥宮の北東のはずれ、飛鳥川沿いにある迎賓施設の苑池への入り口の建物跡らしい。
場所的には、先週だったか、20歳くらいの若者5人が乗った車がスピード出し過ぎで全員命を落とした現場からは徒歩5分くらい南に行ったところ。

飛鳥の芋畑。奥は多武峰。

車を降りて会場へ向かう頃には雨も止んだようで、放棄田では虫がしきりに鳴き青々とした狗尾草が揺れ、薄羽黄蜻蛉(精霊とんぼ)も群れ飛んでいる。板蓋宮跡から甘樫丘へなだらかな傾斜が続く一帯の田圃は、無農薬農業を実践しているためだろうか、田螺や蜷がいっぱい。小さなおたまじゃくしも泳いでいる。芋の葉も立派に育って雨露がきらきらと光っている。用水を流れる水も折しもの雨も加わって流れには勢いがある。
顔を上げると多武峰からは雲が湧きだしてきているのが見えた。
このようなロケーションなら句はいくつでも作れそうだ。問題は質だけど。

説明会が始まる頃また雨が降り出して、晴れ間にのぞいていた多武峰が雨雲に隠れてしまった。