口に広がる

辛きばかり当たる日の獅子唐辛子

今日は大丈夫かな?

最初の一口はおそるおそる噛んでみる。ああ、大丈夫だと思うと二つ目からはがぶりといただく。そのあとは大概は大丈夫なのだが、たまに一口噛んでたちまち辛さが口の中に広がろうものなら大騒ぎである。
それが、一度ではなく二度もあったりすると、もうダメである。どこそこの店ではもうシシトウは買わないといきまいたり、文句の一つも言ってやれとなる。
辛いのに当たるのはたいがいシーズンはじめではないだろうか。

唐辛子は秋の季題だそうである。あの赤い実の唐辛子なら確かに秋でも良いが、シシトウとなるとどうかなという気はする。一方、万願寺唐辛子は春だそうである。

時代劇

竹落葉敷いてロケハン適地かな

時代劇の映画やドラマでは定番の竹林。

手入れされた竹林の道を歩くのは心地よいものがある。周囲よりはいくぶん気温が低かったりして空気が特別な感じもするし、風にそよぐ葉擦れの音以外は吸収されてしまうせいなのかどうか静寂である。
くわえて今の時期は葉っぱが交代する時期で、古い葉がうっすら積もるように散り敷いて、いかにも土壌は柔らかそうだ。

夏越の大祓

水無月の晦日神事の巫女駈けて
形代を茅の舟にて流しけり
行きずりのハイカーくぐる茅の輪かな
山辺のハイカーくぐる茅の輪かな
菅貫を氏子の犬のくぐりけり
まず作法習ひて茅の輪くぐりけり
千歳伸ぶてふ歌唱へ夏祓
禰宜巫女につづく長蛇の夏祓
夏祓禰宜にしたがふ長蛇かな
夏祓禰宜待たさるる長蛇かな
切麻(きりぬさ)の散らばりしまま御祓果つ

今日はいわゆる「夏越の祓」の日である。

大祓とは6月と12月の晦日に過去半年犯した罪や穢れを除くための祓えをすることで、6月が夏越の祓(なごしのはらえ)、12月が年越の祓(としこしのはらえ)と言われる。
大神神社の茅輪くぐり神事
とくに夏越しの祓えでは各神社では「形代」に穢れや病を移し、水に流したり、茅を編んで輪にした「茅輪」を三度くぐって穢れを祓ったりする。この輪をくぐるとき次のように歌いながら行進するのだ。

水無月の夏越の祓する人は千歳の命延ぶといふなり(拾遺集)

何でもこの大祓は大宝の律令によって定められた行事で、衛生状態のよくなかった当時疫病を退散させるための行事であったのだろう。一時途絶えていたと言うが、明治になって大祓の復活が命じられ今日まで続いているということだ。

大神神社では午後三時からあるというのでお詣りしてきた。一人一人に渡された形代に息を吹きかけて穢れを移し、水に流す神事の後神職や巫女に続いて茅輪くぐりし、最後に大祓のお札をいただいて終了だ。

なお、「夏越の祓」「形代」「茅の輪」いずれも夏の季語で、傍題も多い。
大神神社の五月闇
梅雨空で参道がおぐらくて昼灯ししていたのを写真に撮っていたら、石段を駆け上ってきた巫女さんたちと目があって、彼女らは恥ずかしそうに歩を緩めるのだった。

9月号の締め切りがなんとか間に合ったと思ったらもう明日は7月。しかも第一火曜日なのでまほろば吟行の日。いやはや。

網戸を張り替える

黒猫の首振る先の夏の蝶
家猫の視線いたぶる夏の蝶

寝ているか、起きて外を見ているか。

我が家の猫たちの一日である。
起きているときの猫たちは窓の外を見るのが大好きである。ことに、掃き出し窓は庭がすべて見通せるので、カーテンを開けてやると必ず集まってきてはしきりに外を見ている。
そして、首を左右上下に振り出したらそれは鳥か虫を目で追っているときである。蝶の場合はひらひらと飛ぶので首を振るのも忙しげである。

ときに破らんばかりに威勢よく網戸に飛びつくことがあるので、ときどきは見ておかなければならないのが面倒となる。現に、破られた網戸が一枚あって放置していたのが、暑くなってからは風を入れる必要から張り替えたばかり。最近のサッシは背高で張るのも一苦労だとこぼしながら。

留守番

出汁だけで済ます冷麦留守守る

実際にはこんなことはない。

家人が今日はあのハルカスへ遊びに行くというので留守番である。昼のために冷やし中華の具をきちんと揃えてくれていたので、あとは麺を湯がいて皿に盛るだけ。当然だが、味はいつもと全く変わらない。

一日くらいなら猫たちの面倒を一切引き受けるのも問題はなさそうである。

水鏡

朝焼のアルプス雄姿田鏡に

今日は榛原の例会。

大和盆地の田植えがようやく終わったばかりなので、景色が植田に映りこむのを楽しめるのは今の時期だけだ。三輪山の方に向かって走っていると大和の青垣が田に映り込んで、田がまるで姿見、鏡のようである。
それがまた、朝焼けに染まったアルプスの姿が田に映り込む、安曇野の光景をイメージさせるのだった。

ヘルパー

鷭の子は雛の弟妹育てもし

いわゆるヘルパーさんである。

ライオンだったか、完全に大人になりきれない雌ライオンが弟や妹の面倒を見るという話を聞く。それと同じように、年に3度くらい繁殖する鷭ではすべてが親離れするまえに次の子を産んでしまうため、親離れしきれなかった育ちの遅い子が2番目、あるいは3番目の雛の面倒をみるのである。

鷭の子は真っ黒な羽毛に包まれて真ん丸をしている。手羽もまだ十分でないのが顔の横でまるで耳のように動かしているだけでもとてもかわいいのだが、ヘルパーさんが細かくちぎった餌を口移しで食べさせたり、それをまた雛たちがねだるようにヘルパーさんにまとわりつくさまは見ていても飽きないものがある。