長い夜

点滴のままで髭剃る朝寒し

入院中に朝晩の気温が一段と下がったようだ。

何をするにも廊下を行けば、点滴スタンドがガラガラと鳴り響く。
造影剤を洗い流すための生理食塩水の点滴のせいで何度も用を足したりしなければならないから、深夜ならなおさら音だけが妙に大きく聞こえる。
点滴のパイプがずっと体にまとわりついているというのも鬱陶しい話で、寝返り打つときに巻き込みはしないかとか、詰まらせはしないかと恐れていると、案の定警告が何度もなってその都度目が覚める。起きればまた用足しに行くという具合にますます廊下を歩く回数がふえてしまう。

そうこうしてようやく長い夜が明けるというころ、看護士さんたちが血圧や体温を測りにくるので眠りはどうしても浅くなる。ひげそり中の鏡の中はボサボサ髪でひどい顔をしている。

小さい手榴弾

B品の侮るまじく瀬戸の檸檬
藻塩焼く島の檸檬の無骨なる

皮も厚くて見た目も無骨。

ところがである。食べて愕く味の良さ。
数年前に知人から分けてもらった檸檬の味を知ってからというものは、ぴかぴかに磨かれて見た目にも美しく黄色に光っている輸入ものをいっさい口にすることはしなくなった。

見た目が悪く市場には出せないというB品とされるものでも、その味は絶品。酸っぱいといっても丸かじりできるのだから不思議だ。
その小さい手榴弾を書店の棚に置きざりにするなどとは、とてももったいないことである。

予約投稿二日目。

銘菓・落雁

雁のけふを満たして落ちにけり

落雁というお菓子がある。

その由来の説にはさまざまなものがあるようだが、いずれにしても京や加賀のお菓子というのは命名からしても雅なものである。
いっぽう、鳥の雁というと、関西ではやはり琵琶湖が似つかわしい。奈良県には雁を養えるような湿原も水田もなく兼題で出されても、この目で確かめようがない。関西で目にするには時期的には今月末以降になるだろうから、その時期になったら近江八景の観光も兼ねて行くのもよかろうと思う。

検査入院中なので、念のため予約投稿である。予定では明日退院となるはずであるが。

検査入院

わがままは言えない秋の旅行とも

今日から二泊三日の予定で入院。

昨年のステント挿入手術の一年後点検というわけだが、念のために希望して受けるものなので比較的気楽に構えている。いわば、少々窮屈な秋の小旅行に行くというくらいの気持ちがないと気分も晴れないだろう。

院内はネット禁止ではないといってもiPadの閲覧中心だろうから、今日を含めて三日分は予約投稿となる。
予想外の事態がおきれば入院が長引くが、その場合はまたその時考えることにしよう。

人身御供

かまきりの身重の窓にかいつける

この2,3日大きなかまきり2匹がそれぞれ別のガラス窓にへばりついている。

まだ簾をかけたままのところに来てあまり動かない。台風が来そうだけどここなら安全だと思うのかどうか、あるいは両方とも大きなお腹をしているので産卵場所を探しているのかもしれない。
そうだとすると、あの大きなお腹の中には交尾した相手が胃袋におさまってるかもしれない。調べれば、かまきりの雌が交尾した雄を食べるというのは、じつは正確ではなくて、目の前に動くものがいるとこれを食するというのは習性らしいのだ。だから動かない虫の死体には目もくれず、たとえ交尾中でも視野に入ったものは攻撃するということだ。
相手となる雄は雌に比べて比較にならないくらい体も小さいし、目をつけられれば一巻の終わりなわけで、子孫を残すには我が身御供もやむを得ない心境でつっこむしかないというのも凄まじい話である。

人間でよかったとその幸運を喜ぶべきか。

蜜柑を盛る

青蜜柑でまわるころに逝きしこと

出回り始めの蜜柑の青いこと。

香りがよくて冬の甘い蜜柑より好きだというファンも多いだろうが、小さい頃から食べつけてないせいか自身はあまり美味しいとは思わない。
秋の遠足ないし運動会のおやつの定番だったようだが、貧乏だったうちではそんな時でさえ滅多に口にのぼるものではなかったからかもしれない。

数日前から仏前に盛られた青蜜柑をみながら、最後は蜜柑はおろか一滴の水さえ飲めないではかなくなってしまった人のことを思い出すのだった。

秋の女神

入れ替わり山車の練り来る秋祭
山車まわし鳶きびきびと秋祭

今日は龍田大社の秋祭り。

崇神天皇が飢饉と疫病退散を願って起こされた神社とされ、後に天武が風神として当社を、水神として砂かけ祭で知られる廣瀬神社をまつり、当社の摂社には秋の女神・龍田姫を祭神とする龍田比古龍田比売神社がある。

歌枕の竜田川をこの龍田とする説と、斑鳩町の竜田とする説があるが、地形的に神奈備御諸の山を裾に配して大和から難波への出入りとなる難所があり、都から見て最も奥まった位置にあるという意味で、個人的、感覚的には龍田姫のいますこの竜田と考える方が自然ではないかと思っている。
万葉集「呼子鳥」の歌で有名な「岩瀬の杜」も斑鳩町と争っているが、本意・本情から言えばやはりこちらではないだろうか。