トンネルを抜けて紅葉峪の落つ
小海線ローカル列車の旅は圧巻だった。
紅葉である。車窓を覆いそうになるほどの落葉松林では幹や枝に絡みついた真っ赤な蔦が鮮やかすぎる。思わず大きな声を出してしまったのが、トンネルを抜けたと思った途端飛び込んできた光景だ。すべての山肌が色とりどりの雑木に塗りつぶされ、それがまた深い渓谷を形成しながら水とともに深い底へとなだれ込んでいく。
たっぷり20分ほどの紅葉列車を楽しんだら、さらにもう一つ大きな声を出す光景が待っていた。清里高原駅まえの花壇である。ドウダンツツジの燃え方が尋常でない赤さなのである。人工ではこれ以上の深さは再現できないと思われるような紅葉なのである。吟行の仲間一同が異口同音にこの赤さについて口々に感嘆の声を漏らす。
残念ながら、句会でこれをうまくものにしたものは一人もいなかった。というより、誰もこの光景を句に詠んだものはいなかった。それだけこの色が言葉では簡単に表せないもの、安易に詠んだら礼を欠いてしまいそうな、そんな雰囲気すら漂わせていたのかもしれない。