グリップ

右ばかり減るサンダルの草の露

ちびたサンダルに朝露の草がこびりついている。

庭履きにいいサンダルというのはなかなか見つからないもので、結局毎回安物で済ましてしまうのだが、大体が底がフラットだから雨後など濡れたまま玄関を汚してしまうことになる。
せめてゴム長のようにソールに深い溝を切ってくれてればこんなことにはならないのだが。
今日もホームセンターで探してみたが底のパターンはどれも満足いくものはなかった。
当町はもともとサンダルが特産のようで、かつてはあの便所のサンダルが全国トップシェアを占めていたとか。今では鼻緒などあれこれデザインを凝らしたものが自慢のようだが、ソール裏面のグリップまで気のきいたものは聞かない。

避けて通れない道

検査なほ病名知らずうそ寒し
骨密度落つとふ電話うそ寒し

今年に入って知人が立て続けに病に伏している。

ひとりはこの一月から臥せておられたが、このほどようやく外出できるようになったとのこと。ただし、治療は継続して受けておられ、人との接触も遠慮されているようで、手放しでは喜べないようである。
また或るひとは、原因不明の目眩や発熱が続き、いろいろな機関で検査してもらったがいまだに病名が知れず、そのため本格的な治療にも進めないまますでに二ヶ月以上は経過している。
お歳はおふたりとも私と同じ七十代だが、この年齢になると体に変調がきたしても不思議ではない。
今日はさらに、家人の電話が聴かずとも聞こえてきたなかに「骨密度」というワードが聞き取れた。平均の半分のレベルまで落ち込んできたとのことで、心配でならない様子である。
人はみな誰もが老いる。誰もが避けて通れない道なれば、あらがってもどうしようもないことだって多くなるだろう。いつかこの身にも起きる、そのときになって慌てないよう、ふだんから修養するしかない。

日々是好日

鰯雲焼けて西方浄土かな
鰯雲潮目をなして乱れけり

今日は外へ出た途端鰯雲に心奪われた。

複雑に乱れながらも一方向へ確実に流れているさまは、まるで目まぐるしい潮目に翻弄されながらも群としての意志を持ったかのようにうねりつつ広がりを見せてくれる。
帰るとなって顔を上げれば、西の空に残った鰯雲が真っ赤に焼けて西方浄土もかくやと思われる荘厳さ。
今日は鰯雲の二度にわたって珍しい態様、変化(へんげ)に遭遇する、秋の好日を賜った。
日々是好日とは禅の考えでは「命あるものにとって明日という日が来るとは限らない この一瞬一瞬を大切にせよ」という教えだそうです。
その日を好日とするために、自ら能動的に佳き日にするよう心がけるのが肝要と。

安定

ポケットの古きレシート秋の雲

いつのものなのか。

よく覚えていない。
急に寒さを覚えて一年ぶりの服を着て、ポケットに手を突っ込むとしわしわの古いレシートが出てきた。
そう言えばあんなこともあったかなと振り返って見るが、たいした感慨もなくこのまま時に流されてゆく浮遊感のようなものが身を包む。
秋が足早に過ぎてゆくような気温の変化だが、この何ごともないというのが精神的には一番安定しているのだと思える。

爽快転じて苦行

爽やかや籾殻一袋抱き余す

一袋20キロくらいの重さになるだろうか。

長さ1メートルちょっと、直径40センチくらいのビニール袋。
この期間だけ営業しているJAの乾燥施設で籾殻をもらってきた。
籾殻なんてあの風袋からして軽いものだと高をくくっていたら大変な目にあった。
昼間は感じなかったが、夜になって床で寝返り打つにも腰が痛い。
合計四袋。これを車から菜園までひとつひとつ移動するのに、それぞれ途中一回の休憩が必要になるほどである。
車に積んだときには新しい籾殻の香りに包まれて気分よかったのだが、これを長駆運ぶ段になると苦行以外何ものでもない苦痛とあいなった。

郡山秋景色

昃りて藁塚影を失へり

大和郡山辺りも稲刈りが始まったようだ。

刈田の間に乾びた金魚田が点々とあるのはいかにも郡山の風情。
多くは機械で刈って細かく裁断された藁が散乱したままだが、なかには藁ぼっちを組んで干しているのもある。心棒を立て堆く組んで干すと言うより、乾けばすぐに回収できるように、束ねた藁を扇形に拡げてあるだけのものがほとんどである。畑の敷き藁に使ったり、庭木の保護などに使うのであろう。
高く組んだものは冬越しをさせて、堆肥などとして利用するため長期間その場で立っているのだが、化学肥料に頼るいまの農業ではそのような光景はもう珍しい。
簡易藁塚は年内に姿を消してしまうのが通例である。

店仕舞

夜とともに虫黙らする雨となる

ただでさえ虫の少ない年である。

虫すだくという言葉がどこにも見当たらない年だったとも言える。
そういう意味では今年は秋に肩すかしされたようでもある。
風呂での楽しみを奪われたのも残念である。
この暑さでは虫もやる気にならないだろうなあと自らを慰めもしたが、いざその暑さが去った途端の寒いとさえ感じる気温の落差である。これでは虫も恋を語るどころではないだろうなあと。
あげくに今日の冷たい雨である。
辛うじて一二匹鳴く夜はあったにしても、夜になって雨が強くなった今日は虫さんたちも店仕舞するのも無理ない。