季節先行

御身代わり像瑞々し花は葉に

四年前に御身代わり像が完成していつでもお目にかかれるようになった。

とは言え、安置された開山堂のガラス戸には新緑が映りこみ、顔を近づけなければ中の様子は見えない。
芭蕉翁が「若葉して御目の雫拭はばや」と詠んだ鑑真和上の像は御影堂に安置され、毎年6月の三日間だけしか開扉されない。そこで、「脱活乾漆技法」と呼ばれる当時の技法によって忠実に模造した像を毎日参拝できるようになった。
四季を通じて参拝できるわけだが、翁の句が頭にあるせいか、新緑の時期がいちばん似つかわしく感じてしまう。

例年よりずいぶん早く夏の気配である。目に映るのは初夏のものばかり。俳句は季節を先取りというが、今年は季節のほうが先に行く感が強い。

撃退

一撃で椿象落とし水鉄砲

カメレオンの水鉄砲はよく知られている。

唾液かなにかしらんが、口から吐き出す液体をふっかけては狼狽する獲物を一飲みにしてしまう早業だ。
それを真似たわけではないが、庭に見つけたあの臭いカメムシめをホースの水で飛ばしてやった。
一匹くらい飛ばしたくらいで何も変わらないのであるが。

天国から地獄へ

滴りの唐檜の針にことごとく
ダムいくつトンネルいくつ山滴る

目的地まであと10キロほどで雨に遭った。

その雨もすぐに止んで、周りの峰から雲が湧いている。高山性の高い木もすっかり洗われて緑の葉が瑞々しい。
下界があまりにも暑いので、あそこなら涼しいかもということで大台ヶ原ビジネスセンターまで出かけた。自宅から約90キロ、時間にして2時間半ほど。川上村と上北山村の境にある伯母峰トンネル手前で分岐して、大台ヶ原ドライブウェイを上るルートだ。
ずっと登りの道だが、サイクリストが多いのには驚いた。9月の休日一日を通行止めにして、ヒルクライム大台ヶ原が行われるそうだが、正気の沙汰とは思えないほどの勾配、そして距離である。
聞けば上北山村の道の駅から2時間以上かけて登ってきたと聞いた。相当な強者でないと見受けた。
終点のビジネスセンターは駐車場も広く、サイクリストのほかハイカーもいれば、登山客も、そして我々のような涼を求めてやったきた軟弱派も。約1600メートルの台地は気温20度で、日陰で風に当たっていると寒いくらいだ。周辺を2,3時間で散策するルートがあるらしいが、ざるそばをいただいて、展示物などを見学したあと下山となる。

盆地は夕方4時と言えど気温38度。気温差18度の灼熱地獄に一気に落とされてしまった。

尾を引く声

初蜩聞きとがめては朝の井戸
蜩に風呂に水張る夕べかな
大庇下に座しては夕蜩
山里の昏るるは早し夕蜩

蜩の声を聞けば秋の足取りを肌で感じることができる。

朝まだきの鳴き始めであったり、暮れゆく夕の鳴きおさめどきには特にその感を深くするものだ。
住宅地にあってはなかなか耳にする機会が少ないが、ちょっとした里山に行けば今頃は大合唱。
長々と尾を引きながら、初秋の夕暮れを演出してゆく。

新薬師寺へ

そのかみの極彩塑像堂涼し

今日は同窓のS君と旧交を温めてきた。

伊賀出身のS君は、この時期きまって毎年ご夫妻で奈良に来られるが、奥さんに別件があってその空いた時間を利用して昼飯をご一緒した。
あてにしていた柿の葉寿司の老舗は盆休みとあって満席なので、やむなくうどん屋に飛び込んだが、客の大半が外人観光客。しかも欧米人らしき人たちが器用に箸を使うのには驚いた。
昨日に続き幾分外歩きも楽になったような気がする奈良公園では、木陰で休む鹿君たちの角は袋角を脱してしっかり形になってきたし、睾丸もよく伸びて放熱効果満点。

不退寺に続いて新薬師寺を案内。両寺とも市中心から離れているせいか訪れる人は少ない。
不退寺もそうだったが、扉を閉じた国宝の本堂に入ればひんやりするほど冷気が包む。本堂というのは春になっても底冷えを感じることが多いが、兼好法師だったか、「家の作りやうは夏をむねとすべし」という名言も素直にうなづける。
十二神将像は目をこらすと、創建当時まとっていたと思われる極彩色の面影がかすかに残っているように見える。
薬師本尊を守る神将は十二年ごとに大将を務めることになっており、有名な伐折羅大将は戌年で戌の方角を守る神。亥年生まれの私は宮毘羅大将に燭を献灯して加護をお願いしてきた。

地球の裏側の祭典

広島忌地球の裏は大狂宴
広島忌五輪で埋まる新聞紙

オリンピックを観るというのは、好きな野球チームを応援するのに似ている。

贔屓のチームが勝てばニュースなど何度見ても嬉しいが、そうでないときはあまり見る気がしない。
五輪とて、強い競技でメダルの可能性がある場合ならいくらか感心があるが、それでも何時に行われるかも分からないものまで意識的に観戦しようという気持ちは起きない。
だいたいがスポーツにはそれほど熱狂するほど好きというわけではないので、結果だけ聞けば十分という感じだ。

チームまたは選手がたまにいい結果を出して、大きく取り上げられるとよくやったなと思うが、期待が大きい種目に限って裏切られることも多いので醒めてみているところがある。
というのは、オリンピックにはときに思いがけないスターが誕生したりしてとんでもない記録が出たりするので、前回がよかったからと言って今度もいい成績をとれる保証はないからである。

ともあれ、素晴らしい記録が出れば何処の国の選手であろうと素直に喜びたいと思う。

ところで、今日は多治見で39度超。ヒートアイランドがますます進む四年後の八月東京で五輪って正気の沙汰ではないと思うが。

追補)掲句は一昨日のコメント欄で披露したものです。

毎日が日曜日

年休の余すことなく夏果てぬ

今日が立秋だそうである。

それにしてもえらく暑い秋である。
大阪、京都、関西は灼熱地獄。
若い人たちはこの暑さをものともしないで、海へ山へ。
年休などいくつあっても足りないくらいやりたいことは山ほどあろうか。

毎日が日曜日の人間には、年金が有給制度みたいなものだろうか。