中世の遺構

はや鷺の嗅ぎつけて来し池普請

池普請とは、池の水を抜いて掃除や石組みなどの修理などをすることをいう。

冬の季語とされるのは、「水涸れる」ともいわれる水の少ない季節であるのに加え、養殖池などでよく育った鯉などを浚う時期とも重なるからであろう。
大きな池になると、水を抜くだけでも数日かかるかもしれない。
掲句は、池の魚を狙ってその水の引くのをじっと待っているという光景である。

池普請が主目的でなくても、灌漑用水の溜池を利用してヘラブナや鯉などの養殖池にしている場合は、田に水が必要でないこの時期に池の水を抜いて大きく育った魚を掬うところもあるようである。
養殖業者だけでなく地域の人たちが多く集まって魚を掬う池もある。
このような溜池は水の少ない地方、とくに四国などではよく見られるという。

中世の遺構あらはに川普請

港の遺構、舟の構造材などが出てきたのかもしれない。
そう言えば、先日に長浜では琵琶湖を行き来した平安後期の船の部材の一部が見つかったと言うニュースが。

内在する命

しめやかに橡の冬芽の光りけり
電飾や冬芽あの枝この枝に

橡の冬芽は粘液で覆われているので青空の下では光って見える。

芽の大きさも朴の木に並ぶほど大きい。
この二つを比べてみると、朴は長い冬芽が特徴で、それを二枚の皮が筍のように覆っていて芽が動き始めると一方から弾けるように開くのだが、橡の方はと言えばずんぐりとした芽で、それが春になって動き出すとまたたく間に団扇を広げるように多くの葉を展開し始めるのが豪快と言える。

この多くの団扇のような葉を内に秘めて光る芽が天に向かっている。
冬とは思えないなまめかしい艶を帯びながら。

追)skyblueさんのコメントからヒントをいただいた句を追加しました。

昭和の光景

変わり種置かぬおでんの店古び
お絞りを待たず指しゐるおでんかな
おでん屋のはや満席に予約客
急階段這うておでんの座敷かな
酒おでん矢継ぎ早なる二階客
おでん屋の二階貸切り大女子会
女子会の流れはおでん屋台にて
おでん屋の切り盛り独りガード下
席ひとつ詰めてもらいしおでん酒
ハンガーも無きおでん屋の小さき椅子

今月の兼題のひとつ「おでん」。

地方や店によってネタに特徴があったり、出汁が微妙に違ったり。
店に入った途端眼鏡が曇るほど湯気がこもっていたり、狭くて汚くて、でも味が忘れられず通う常連、どっときた予約客、同級生だったり女子会だったり、いっぺんに賑やかに。
狭くて急な階段のうえからビールだのお銚子だの注文も殺到しておやじは大忙し。
ぬいだコートの置き場所すらなくて椅子の背もたれに掛けたり、コートのままでいっぱいやったり。

イメージに出てくるおでん屋の光景はいつまでも昭和のままだ。
こんな店がまだあるなら喜んで行く。

ローカル局への肌合い

歳晩のライブミニ局CM中

ガラス越しに見えるローカルFMのスタジオ。

奈良町商店街のど真ん中にあるライブスタジオの前にいる。
デスクにはアナウンサーとおぼしき女性がいるが、生放送中ではなく録音したお知らせや地元企業のコマーシャルなどが外部スピーカーから流しているようだ。
通りから珍しそうにのぞいている私などまるで眼中になどない風に、ちょっと垢抜けた女性は次の放送の原稿であろうかそのチェックに余念がない。

歳晩の雰囲気がいくらか不足している商店街にあって、ここだけスピーカーが鳴って慌ただしいテンポを誘っているが、誰も興味引かれるふうでもなくただ素通りして行く。まるでこの分厚いガラスは巷との距離を隔てる結界でもあるようだ。

自宅最寄駅前のロータリ地下広場にも地元FMスタジオがあるが、ガラス張りで広場からよく見える場所にもかかわらず立ち止まって見ている人を見かけない。
地元局に対する肌合いというか、愛着の度合いが測れるような気がした。
全国どこのローカル局でもこんな風なのか。そうだとすればちょっと寂しいなと思う。

和の芸能か

内陣の声明よそに木の葉散る
声明の抑揚絶えず木の葉雨

声明には独特のリズムというか調子がある。

揺れたり、上昇したり、下降したり、せり上がるようだったり、様々な動きがあって素人が簡単に真似できるものではない。
譜面には記号が書かれていてそれをなぞるように「引く」わけだが、西洋の音階という概念を持たなかった和の芸能全般にも通じるものがあるのではないか。

木の葉が散らんとするとき、もしわずかな風でもあれば声明の調子のように、くるくる舞いながら落ちてゆく。声明を聞いていてそんな光景を想像した。

水尾引くかなきかに鴨流る

泳いでいるわけではなさそうである。

ただ、どこへ行こうという意志があるわけではなさそうで、はっきりとした水尾も引かずただ流れているという感じ。
餌を十分摂った後の消化タイムかもしれない。

呑気に見えて、実際は水中の足はゆっくり動いているのだろうが。