2ndテナーの優男

高麗山の落花せかする雨一夜

思いもかけない訃報が届いた。

それも、亡くなって一年後である。
コロナ禍もあってご遺族は広くお声をかけるのを避けられたのだろう。
友人がたまたま演奏会の案内を出したところ、ご遺族から丁重な返信があったのだと。
大学の同級生であり、男声合唱団の仲間であり、しかも二浪というところまで共通の、テナーの声がよく通る優男。
長年住み馴れた横浜を引き払い、余生を大磯・高麗山の邸宅で穏やかに過ごしておられるとばかり思っていたのだが、互いに賀状出さなくなって半ば音信不通状態のまま。コロナ禍が収まればまたいつでも会えるとばかり思っていたのに。
昨年の花の盛りにこの世を去ったS君に捧げる句である。

杜撰

開発の中断されて山笑ふ

いっせいに山の緑が吹き出した。

落葉樹が多い山ならではだが、冬から春への変容は息をのむ美しさがある。
その美しい山容を無残にも切り取って大規模太陽光発電の計画がすすんでいたが、平群町民の反対で頓挫している。始末が悪いのはすでに樹木が完全に切り倒され山膚の爪痕もあらはに、裾からも無残な姿をさらしているのがよく見える。相当規模の大きい開発で、山塊の崩壊による災害を招きかねないと住民運動が起きていたところに、ずさんな計画がつぎつぎに明らかになりメガソーラーの許可を出した県も止めざるを得なかったようである。
開発途中の映像を見るにつけ、よくもこんな杜撰な工事がすぐ近くで行われたのには戦慄を覚えるが、これを安全な状態に復元するにも課題が多いだろう。熱海の土砂災害の件もあり、このような危険な開発計画が他にもすすんでないか、おおいに気にかかるところである。

様子見

花便り北より届く穀雨かな

言い得て妙である。

今日より二十四節季穀雨。
もろもろの穀物、広く言えば野菜にも、恵みをもたらす多くの雨がふる季節である。
夏に向けて種まきにしても定植にしてもそのあとは十分な水分が必要となる。したがって素人ファーマーといえども天気予報を気にしながら予定を組むわけである。
トマトの苗が順調で明日から雨が続くというのは定植のチャンスだが、朝の低温が心配なので様子見することにした。このままでは苗が育ちすぎる心配があり、今日はひとまわり大きい鉢に植え替え時間を稼ぐことにした。

無線放送

雲雀野に雨よぶ雲のなかりけり

さいわいにまだ裸眼で雲雀をとらえられる。

ということは合焦機能がちゃんと働いていることである。ときに声の方をさがしても見つからないときもあるのだが。これはたいていが雲雀が風に乗って素早く流れているときである。目を向けた方向にはすでにいないということが、なおさら見つけられない原因となるのだ。

今日の日中は作業を避けた方が賢明というくらい暑かった。明後日から天気が崩れると言うので、それまでにやらなければならないことは山ほどある。外へ出るタイミングをはかっているうち、いつの間にかうたた寝をしてようで目覚めたらすでに3時を回っていた。デイリーのルーチンがあり、農作業終わってからだとしんどいのでまずそれを片付けてから出かけると、時間はもう4時半。それから1時間半ほど、6時の町内無線放送を聞いて終了である。

勸請縄のある集落

畑打つや信貴畑しぎはたといふ山の腹

生駒山スカイラインという道路は早くあるが、その生駒山地の少し下ったところに立派な農道が走っている。

信貴山中腹から平群元山上口辺りを結びフラワーロードと呼ばれる比較的新しい道路だ。
平群町は小菊の産地で、山の畑でも小菊が盛んに作られているのだろう。
菜園から顔を上げると、古くからある集落・信貴畑の一画が望める。歩けば自宅から30分ほどで着くだろうか。信貴山奥の院、あるいは信貴山頂へぬける道があり、生駒線竜田川駅と信貴山口駅を結ぶハイキングコースでもある。人がなぜこんな山の中腹に集落を作ったのか分からないが、勸請縄があることからも相当古い集落であるのは違いない。
平群の集落とは距離を置き、何世代にもわたってここに畑を打って生きてきた人々がいる。

草丈

酔狂に花まで咲かせ大根畑

採り残した大根一本。

種を採ろうというわけではないが、5月の夏野菜定植まで間があるので放置しているだけである。
今では菜の花の黄に混じり真っ白な一本が目立つ。蝶も賑わいに花を添えてくれるし、春爛漫の庭畑である。
先日刈ったばかりの草が、この雨で勢いがついたようで大根の花を隠そうとするまで育ってしまった。今月中に二度目の草刈をせねばなるまい。

ノルマ

投げ込みのことり音する日永かな

郵便がこなくなった土曜日。

それでもセールスや教室案内の投げ込みのチラシは届く。
夕方することもなくくつろいでいるとポストに音がある。新聞はもう来たし葉書は来ない日だが各戸をまわる投げ込みだった。伸びた日をめいっぱい使ってノルマをこなしているのかもしれない。