取りつく島

うそ寒やぴしゃりと話たたまれて

話が続かない一言というものがある。

「ああ言えばこう言う」ならば答が返ってくるだけ話が続くのだが、一言でぴしゃりと話をたたんでしまわれては黙るしかない。とりつくしまもないとはこういうときだろう。
味気なき気分だけが残って、気まづい空気に支配されては、再度話を始めようとは思わなくなる。

全うさせる

のけぞりて猫にあらがふ枯蟷螂

みぃーちゃんがカマキリをいたぶっている。

目撃するのはこれで今年二回目だ。
みぃーちゃんの繰り出すジャブに、これでもかと背伸びし翅を大きく広げファイティングポーズをとっている。
さっさと飛んで逃げればいいのだろうが、もうそのような力はないほど弱っているのではないか。そういう意味ではすでに枯蟷螂の域に達してる初冬の姿であろう。
みぃーちゃんの楽しみを奪うようだが、カマキリの一生を全うさせてやるために隣の空き地に逃がしてやることにした。

一騒動

さてどこに眼鏡行ったか暮の秋

いよいよ晩秋の趣を強くしてきた。

家の中より外の方が暖かくて、庭仕事もはかどる。
毎朝露が降りるので、それが乾く頃合いを見計らって外でたっぷり日を浴びる。
終わると体が温まって部屋に戻っても厚着する必要がないくらいだ。
今度はちゃんと庭木にも寒肥をしてやらなければと、肥料の仕込みも。発酵が終わるのはあと2ヶ月ちょっとくらいだから、2月には十分だろう。
連れが眼鏡ないないと大騒ぎ。つきあって探すこと30分。
案の定、「こんなところに」で一件落着。

猫団子

後の月さへぎる影のなき盆地

明日が十三夜らしい。

ところが予報は曇。ならばと外へ出て仰いでみると意外にも今年は青くない。もちろんそのときの気象条件によるのだが、今夜もまた高気圧が真上にあるので放射冷却効果が顕著にでる盆地である。
秋の低気圧は猫も喜ぶが、高気圧は逆に猫の大敵。
ここのところ猫どもはいわゆる「猫団子」化して固まって夜を過ごしている。
それにしても、都会と違って田舎はいい。月を遮るビルもなく、空は広いのである。

ライバル

猫の足濡れて戻りぬすがれ虫

一匹だけ細い声が聞こえる。

しかし最盛期とちがうのは、人の気配を感じただけでぴたっと鳴りをひそめてしまうのだ。ただでさえ心細いようなかぼそい声で鳴くのだから、ぴたと止んでしまうと少しでも変化がないかといっそう耳をかたむけて聞こうという気になる。
やがてその場を少しはなれるとまた小さな声で鳴き始める。虫の鳴くのは雄だけだと聞くが、鳴き交わす相手もいなくてライバルもいないのだろうが、だいいち聞きとめてくれる雌がいるのかどうか、それさえも分からない。

今を生きる

鵙猛る里に日の落ちなんとして

駅を降りるとけたたましい声が聞こえる。

駅の近くに広がる里山に日がまさに落ちようとしている時刻、縄張り争いの鵙の高鳴きである。どこかの木の天辺付近で鳴いているのだろうが、目をこらしても見つけられない。残照にハイライトを浴びるようにまぶしいので、両手かざしに見回すが相変わらず高鳴きはやまない。
すっかり日が暮れるまであの戦いは続くのだろうか。見届ける余裕はないが、彼らも今を生きるのに精一杯なのである。

ゆるくなる

手の届く位置に柿あるホームかな

平群谷は柿の実が夕日を受けてまぶしい。

我が家の柿はとっくに終わったが、里の柿はいまが盛りらしい。
手を伸ばしたら近鉄のホームから簡単に届きそうなくらい、そこに昔からあるのはまるで当たり前のようでいたずらする人もいない。
点在する柿はすっかり里に溶け込んでいる。
昨日は投句をすっかり忘れていたようで、今日は昨日と今日の分を投稿しなくてはいけない。
だんだん頭がゆるくなってきたのかも。