小出し

春の昼テレビ見るともなしに点き

気がついたら一日中テレビがついていた。

テレビの前にすわっていなくても、刻々変わるコロナ情報が聞くともなしに耳をすり抜けてゆく。
今日は一人10万円の給付が補正予算練り直しでやるらしいこと、緊急事態宣言の全道府県拡大がやっと検討されてきたらしいことが流れてきた。
このように、打つ手が小出し、小出しの連続でさっぱり展望が開けないのは何とかならないものか。

引き換えて失ったもの

砂噛んでけふの浅蜊は外れなり

久しぶりに夕飯に浅蜊が出た。

大好物なんだが、最近ではスーパー経由でしか手に入らなくて、少量がきれいにパックされて清潔感はあるのだが逆に粒がきれいに揃っているなど工業化感が強くて味気ないような気がする。
子供の頃よく食べたのは大きさもまちまちで、鍋に入れたのが元気に砂を吐いて鮮度もいかにもよかった。
食べる前に洗うとびっくりするくらいの砂と汚れが取れて、いかにもさあ食ってくれと言わんばかりなのである。
そんな次第だからなかには既に死んでいて蓋が開かないもの、代わりに砂で埋まってるもの、そして吐ききらない砂があるものなどあっても、鮮度には文句がなく旨いもんだから我慢できたものだし、そんなもんだと思ってもいた。餌食となった蟹の赤ちゃんが出てくるところなどむしろ漁場を近く感じもし好ましいものであった。
ところが、工業化感たっぷりの最近のものは鮮度による旨さをはなから諦めているだけに、食べてみてちょっとでも砂を噛もうものならそれは怒りに近いものになる。誰にあたってもしょうがないのであるが、こうなれば自ら浅蜊掘りに行くしかない。が、面白いように採れた浜などとっくに姿を消して、やはりこの50年の間に失ったものは大きいと思わざるを得ないのである。

雨後の空に

つばくらめつの字をかいて辻の軒

今年はほんとに不思議だが燕が少ない。

というより、年々減っているのではないかとさえ思われる。
とは言え、平城京の塒入りのニュースなど聞くといるところにはいるらしい。
これは近所の話にかぎるのかもしれないが、思い当たる節はある。
ひとつには新しい団地で燕の巣作りの難しい家が多いこと、つぎにここでもご多分にもれず烏が多く巣をかけるには危険が多いことなどである。
ただ五年ほど前までは近所の家に巣をかけて子育てをうまく成功させていたが、その後も更地にどんどん家が建ってきたことも影響しているかも知れない。その証拠にその更地を縄張りにしていた雲雀がこの一、二年見られなくなったことである。朝起きての頭上に揚雲雀の元気な囀りが一日の始まりを楽しくしてくれていたのに。
やはり燕が減ったのは鳥が生きていく上での条件を失ってしまったのが最大の要因だろう。

きょうやっと雨があがって空気が澄んだ空を、一瞬燕を過ぎっていったのを目撃した。

くじ引き

ステイホーム守るも難し春の昼

もう何日家にとどまっているだろうか。

コロナ疲れに加えアベ疲れもあって、さらにこの先が見通せない不安が頭にのしかかってくる。
この感染症はくじ引きみたいなものらしく、誰に当たるか分からないし誰が当たっても不思議ではないところが不気味である。
宝くじは買わなければ当たらないが、コビット19は買わなくても当たる。自分だけは大丈夫だと思ってせっせと繁華街へ繰り出す人があとをたたない。
人類は強気の冒険家と臆病者の微妙なバランスで生き延び進化してきたと言われるが、未知の微生物に対してはたとえ猛者であろうと当分は臆病者のふりしているほうが無難のようである。
今日などは朝から冷たい雨だからおのずと外出がためらわれるが、これが好天気ならもっと気が重かったろう。

追い打ち

花冷や水切りのある石畳

寒い雨である。

強くなったり弱くなったり日がな降る雨は、散る花に追い打ちをかけるようでさえある。
毎朝窓から眺める八幡さんの桜が日に日に褪せてゆくのが遠目にも分かるほどだが、明日には薄汚れた花の塵が下に張り付いているにちがいない。

難波の華も

造花葺く演芸場に桜散る

先日通りかかったら「昼席休止」の札がかかっていた。

この騒ぎでも夜の部はやっているのかと首をひねったのだが、やはり寄席や演芸場はすべて休止しているようである。
入り口の庇に造花の花を挿して華やかさを演出はするものの、それも今ではむなしくてお隣の宮の桜は散るを迎えているのである。

再会

声の主見つけて小さし初蛙

鳴き始めてひと月はたつだろうか。

例の雨蛙が今年も元気に冬を越したようで、体に似合わぬ大きな声で鳴くようになった。
相手を求めての鳴き声だと思われるが、「早う起きてこよ」とでもいうのだろうか、ひとしきり鳴いてはまた静かさが戻るというようなことが繰り返されている。
そろそろ鉢物を庭に出そうと思うが、そうなればいつの間にか鉢に潜り込んで水遣りのたびに顔を出すのも楽しみとなる。