足に優しい道

山茶花の名なき墳墓に散るがまま

山茶花の白が好ましい。

もう何日咲き続けているだろうか。
平坦な道ばかり歩いてもつまらないので、墳墓は必ず登るようにしている。何より眺めがいい。

また、足の裏にも優しいのだ。
今日の距離は7キロほどか。吟行をかねての散歩だから時間はかかる。

櫟はいまだ眠らず

冬ぬくし櫟はいまだ濡れてゐる

半分ほど葉を落とした櫟の幹に触れてみた。

黒々と樹液がしみ出た部分がまだ完全に乾いていないところをみると、櫟はまだ眠っていないのだ。
あと一二週間ほど葉がすべて落ちきったら冬眠に入るのだろうか。

下り坂

草原に人より多く羊雲

この雲が現れると天気の下り坂だそうである。

西の大和川河口方面から、羊雲がどんどん流れてくる。
10月の陽気だというので、多くの人が散歩を楽しんでいるが、空はどこまでも羊の群れに覆われているようだ。

顔を出す

はやばやと参道灯り冬めける
襟立てて過ぎゆく影の冬めける
冬めくや戸から顔出てお見送り
集積所に庭屑積んで冬めける

すっかり冬模様である。

見るもの、触れるもの、感じるものから冬が感じられる。
週末の庭仕事で出た、枯葉、剪定の屑などが月曜朝のゴミ収集所にあったり、いつもなら門まで出て朝の見送りをするお母さんがドアから顔出してバイバイするなど、ちょっとしたところにも冬が顔を出す。

小春にさそわれる

立ち枯れて下葉にゆづる冬日かな

大きな木が枯れて若い木々に日が差している。

目の前の漆の若木の紅葉葉がハイライトされて、日に透ける緋色が美しい。
これが小春と言わんばかりの日和である。しばらくその美しさに見とれていた。

初霜

チン鳴ってウィンナ解ける霜の朝

初霜が降りた。

すぐに解けたが、水栓の水が妙になま温かいのを新鮮に感じた。それは、まるで地中に張り巡らされた血管のようで、脈打っているその体温に触れたようだった。

冬の香

香の拠る処答へていはく柊と

風に運ばれてくる香にはっとする。

お隣さんから、花の名を訊かれた。
地味な花ながら強すぎることなく、かといって決して貧弱でもない香り。へたな香水なら、長く嗅げばクラクラとしてしまうが、これは上品な香りである。
香しいが控え目な匂ひ。春の沈丁花、夏の山梔子、秋の金木犀はそれぞれの季節を代表する香りだが、冬の花柊こそ好ましく思う。