朝採り

裾分けの冬菜の函の抜けそうに

句友から野菜をよく貰う。

今度も白菜、キャベツ、レタスのほか大根、人参、薩摩芋などなど段ボール箱いっぱいに入った冬野菜を何人かで分けた。春には竹の子。退職後も田や畑の仕事だけで相当忙しく、顔もよく日焼けして健康そのものだ。

朝採ったばかりのものなので、段ボール箱の底がしっとり湿って気をつけないと底が抜けそうだ。

これもパノラマ

たくし上ぐ今朝のカーテン初時雨

目覚めの朝は暗かった。

ちょうど時雨が通り過ぎているようで、目と鼻の先の対岸を今にも覆おうとしている。
今日は珍しく北西から南東に向けて時雨が走っていく。ちょうど家の後ろから来て前へ去って行く感じの方向である。普通は西から東へ、盆地を横切るように過ぎていくのをパノラマのように見えるのだが

この冬ははたして何回パノラマを眺められるだろうか。

ほんとの冬到来

凩や幟はためくコンビニ店

景色が急に変わった。

昨夜来の凩が街路樹のハナミズキをすべて吹き払ったらしい。
市街地にまで木枯らしが迷い込むようになった。
今朝の気温は三度まで落ち込んだという。
これに盆地一号の木枯らしが加わって、寒いのなんの。

宇陀や飛鳥の南・高取では霙も降ったと。
一気に冬到来だ。

玻璃戸の向こうに

初霜となって温泉宿の遅発ちと
初霜や送迎バスを暖機して
初霜や送迎バスの定刻に
初霜となつて文遣る朝かな

起きてみたら霜が降りていた。

山深い湯宿なのでガラス窓も凍りつき、庭や露天風呂の周りもうっすらと白い世界。
この分では道路が凍ってるかもしれないし、朝日がすっかり昇って解かしてくれるまでは宿でゆっくりしていたい。

もう一回朝風呂にでも入ろうか。

猫またぎか

強面の葉を持つてして花柊

玄関脇の柊が随分大きくなってきた。

防犯用に、また隙間を埋めるためにもと植えたのが、去年あたりから花を一杯つけるようになってきた。
今年もこの一週間ほど白い花がびっしりとついている。折角だから香をかごうかと近づいたら、固そうな葉の縁が尖っていてそれが頬を刺すのでびっくりした。

この強面の葉に守られた花というのは、本当に小さく地味で、それだけではたいした魅力ではないが、あの微かな香りがどこからか漂ってくる風情がよいので歳時記にも取り上げられてるのだろう。

木が大きくなって茂った葉を敬遠してか、最近は猫が回り道しているようにも感じるのだが。

淡い期待

遠目には雪降るごとく木の葉雨

思わず窓に寄っていた。

病棟の長い廊下の突き当たり、非常扉の窓に切りとられた先はまるで牡丹雪が降っているようだったからだ。
よく見ると、それは小さな木の葉が間断なく降る光景だった。

家人が検査のため入院となって病室を見舞ったときだ。
朝から曇りで、この時期いつもそうであるように盆地の南部の空が暗い。
いつ雨が降ってもおかしくない空模様だし、今日は後半冷えてくるという予報を聞いていたので、暗示にかかっていたのかもしれない。

雪ではなくて木の葉だと分かってちょっとがっかりもしたけど。

トレードマーク

眼鏡紐ゆれてつぶさに冬の御所

フリッカーに上げてある去年の写真を開いてみた。

源氏完読記念の京都宇治の旅である。
そのなかに句友二歩の笑った顔が大きくクローズアップされた写真がある。
京都御所見学のときの写真だ。
よく見ると、その顔に昨夜の名残があるのはいかにも彼らしい。
そして、どこへ行くにも彼の眼鏡には紐がついていて、それが一つのトレードマークである。

カメラに向かって笑顔を振り向けた、そのときの彼の目は限りなく優しい。