鬼は内

石塔の影整然と日脚伸ぶ

元興寺には「浮図田」と呼ばれる石仏群がある。

整列した石仏の間に落ちる影もまた整然とくっきりと、光も力を増してきたようである。
全部で千基ほどはあろうか、その間を巡る間にも、ところどころに、石仏に寄り添うように万両が紅い実を見せたり、紅や白、絞りの寒椿が影をつくったり、落椿に埋もれるようなところもある。
一つ一つ表情が違っていて、時間をかけて廻っても見飽きない趣があった。

お地蔵と背比べもし実万両
小仏にお手玉しんじよ実万両

豆撒の舞台験む頭かな
節分の設へ幕を残すのみ
幔幕を張つて節分舞台成る

この寺には「元興神(がごぜ)」と呼ばれる鬼が守っていると伝えられ、豆撒きのかけ声は「鬼は内」。吉野の金峯山寺も同じように「鬼は内」、大神神社はご神体が山であることから「鬼は山」というとか。

参考)元興寺節分柴燈護摩会のページ

冬の意外な顔

堂縁に燭台拭ひ節分会

久しぶりの吟行。

明日の追儺会に備える元興寺を詠もうという趣向である。
豆撒きの舞台や、火渡りがおこなわれる護摩壇の設営の他、会場保護の仮囲いなど、いろんな職種の人たちが忙しそうにしている。
吟行子はそれらの作業の邪魔にならないように、時間をかけて境内を一巡。
境内のいたるところに水仙、紅白の椿が咲き、万両、千両が実をつけている。早咲きの梅は早くも終盤を迎えていたりして、萩の寺として有名な元興寺の冬は、意外にも花の寺であった。

山里は山里なりに

切り花の出荷まぢかに室の桃

五條市西吉野町は切り花の産地。

桃の節句をまえに、蕾のうちに枝を刈りとって、室で開花調整しながらの出荷準備に追われている。
福島県のある集落では、耕作に適さない山に切り花用の木ばかりを植えて、村全体を花の里にして多くの観光客を集めているところもある。
五條はそれほどの規模もないし観光資源ともなってないが、秋の柿とともに、地理をうまく生かして地方の産業に育てているようだ。

よく乾く日

乾し物の匂ひ取り込み春隣

よく晴れて気温も高い日だった。

感覚的には三月下旬くらいの感じ。
確実に三寒四温のサイクルに入った気がする。

底冷えの盆地でも、洗濯物が昼前には乾いたというのは久しぶりだろう。

春を呼ぶ雨

記念日のつづく厳寒折り返し

寒もいよいよ最終段階。

月が明ければ、すぐに節分、立春である。
もう寒明けを待つばかりで、そう思うと昨日の雨などは春を呼ぶ雨だったのではと思えてくる。
何度かは寒の戻りはあるだろうが、間違いなく、寒のピークを打ったと言っていいだろう。

土に優しく

寒の雨ついて恩師の遺影かな

生憎の雨である。

この冬は比較的雨が少ないなと思っていたが、降れば土砂降りと言おうか、朝からよく降るものだ。
気温の方も、朝方は楽だったが、昼になってもたいしてあがらない寒い日となった。

寒に入って9日目に降る雨を「寒九の雨」といって、その年の豊作を約束するという。
言われてみれば、たしかに、今時分の雨は春を待つ植物にとっても、土にとっても、重要なのであろう。
寒の雨は、人に冷たく感じても、土には優しいのである。

冬田の風物詩

竹組んで茶筅の里の寒晒

前にも書いたが、生駒市北部の高山地区は茶筅の里である。

寒に入ると、材料となる竹を円錐形に組んで冷たい風に晒す、「寒晒し」がはじまる。
あらかじめ湯を通してあるので、ある程度の油分は抜けている。布を寒に晒して色をいっそう鮮やかにするのと同様に、この試練によって竹の繊維がしまるとともに、美しい肌や肉を作るのに欠かせない工程なのであろうか。
三月まで晒したあと、さらに2年ほど乾燥させ、そのなかから厳選したものだけが使われるという。

冬田に、雨傘の骨のような形をした寒晒しの竹が並ぶのは、この時期ならではの風物詩である。