大パノラマ

睡蓮の咲きそめモネの美術館
山荘の美術館辞し橡の花

アサヒビール大山崎山荘美術館へ。

山崎駅すぐの踏切を渡るともう天王山への登り口である。
美術館は山の麓にあるというものの、木津・宇治・桂川大合流の素晴らしい眺望が得られると聞いたのでそれなりの登坂は覚悟しなければならないと思った。

やはり最初の50メートルほどは胸突き八丁の急登坂。最近股関節の具合がよくなくて、とくに登りが辛い。すぐに痺れてくるので休み休み、喘ぎあえぎしながらようやく2百メートルほどの山道を登った。
山荘まですっかり新樹の道であるが、山荘の入り口にあたる「琅玕洞 (ろうかんどう)」という門を擬したトンネルをくぐるとさらにまた素晴らしい庭園への誘い。山崎の合戦のおり秀吉が陣を敷いたという宝積寺も隣り合っていて、重文・三重塔が隠れ隠れに見える道である。
サイトの庭園ガイドを見てもその素晴らしさは容易に想像できるのではないだろうか。

大山崎山荘美術館の睡蓮

館内ではモネの「睡蓮」四幅に酔い、池を見ればもう睡蓮の花が一輪咲いている。三川合流、そしてその向こうの石清水八幡さんの大パノラマをバルコニーから眺め、館内の喫茶店で珈琲で一幅。

紅橡の木の花
美術館の外に出れば、盛りを過ぎたとはいえ姫橡の木の紅い花が見送ってくれた。

ウィスキーがお好きでしょ

椎の花モルト生まるる香に咽び

東海道線山崎駅ホームに降りたつと強烈な椎の花の香り。

天王山がそそり立つようにホームを見下ろしている。仰げば山のところどころが椎の花とおぼしく、白く盛り上がっている。
昨日は高校同級生のI君のお世話になってサントリー山崎蒸留所の工場見学会だ。I君は同社で長年勤務し、今も系列企業の幹部。同窓会と言えばなにかと彼のお世話になることが多い。俳句仲間でもあり、ときに放つ粋な句は彼の鷹揚とした人となりを語るものである。

この日は地元関西から13人、本拠地三重県から23人、総勢36人のちょっとした同窓会である。なかには卒業後50年ぶりに再会を果たして名前を確認し合う場面もあった。

琥珀色の魔力

サントリー山崎蒸留所と言えば、あの世界に誇る「響」「山崎」の故郷。JR線に沿って車窓からもよく見えて、同社の宣伝ポスターなどでもおなじみの光景である。木津・宇治・桂三川の合流するところ、後背の天王山がもたらす天然の名水「離宮の水」や適度な気温・湿度などウィスキー生産には最適な立地だと言う。
工場に一歩足を踏み入れただけでもう甘い麦芽の香が立ちこめる。蒸留ポットが薄暗い光に輝くさまが美しい。

サントリー山崎蒸留所

約一時間の見学には試飲タイムも含まれて、「山崎」のハイボールが絶妙の味。家庭で単純に混ぜ合わせるだけではなかなか出せない味で作り方にも作法があるらしい。ハイボールは最近若い人の間で人気だと聞くが、巷の店でこれくらいうまく飲ませる店というものは今まで出会ったことはない。

ここ山崎は、鎌倉時代から戦国時代にかけて石清水八幡宮の神人たちによる「大山崎油座」が、畿内において独占的な権益を占め権勢をふるったとされ、そんな油の歴史と関係があるのかどうか同地の老舗天麩羅店で昼食会だ。
近所には油の神様をまつった離宮八幡という神社もあるらしいが、散会後宇治に寄るという三重県組と別れ関西組はアサヒビール大山崎山荘美術館へ。レポートはまた明日。

髑髏マーク

電気柵巡らす畦の草を刈る

もうこの時期から獣害を考えなければいけないのか。

田の周りには髑髏マークの「電柵注意」との標識が立っていて、人間はその中で電動草刈り機を振り回している。
何とも不思議というか、滑稽な光景である。歳時記にある季題「草刈」というのは、牛馬の餌や肥料のために畦などの雑草を鎌で刈ることを言うが、今では牛馬に変わり耕運機、田植機の時代である。刈った草など持ち帰る必要もなく放置されたままである。言うなれば死語に近い季題であるが、「夏草」「草茂る」などは時代変わらず生きている。

現代は半日もあれば田の数枚も刈ることができ、農作業はずいぶん楽になったのであるが。

レンタサイクル

自転車で巡る斑鳩柿若葉
柿若葉世界遺産の後背地

法隆寺自体には柿はないが、斑鳩の里を歩けば無花果や葡萄、柿の畑が多い。

ここの無花果の実のことは以前にも触れたが、この時期はばっさりと剪定した太い幹から若い枝が2,30センチほど伸びたばかりで、これで本当に実が成るのか不思議な光景だ。葡萄はまだ花は咲かないが、着実に花芽がのびて蕾を充実させつつある頃。

法起寺の国宝・三重塔

柿はと言えばご存じ柿若葉の候。花芽もすっかり形がわかるほどに成長しつつある。法輪寺や法起寺の裏手の丘は葉に照る光がまぶしくて、国宝の木造の塔とは好対照である。
飛鳥もそうだが、駅からはちょっと距離があり、各お寺も互いに離れているので、斑鳩はレンタルサイクルで巡るのに最適かもしれない。何より飛鳥に比べてフラットなのがいい。さらに足を伸ばせば茶道石洲派の祖・片桐石洲が作った名庭園「慈光院」にも近いし。

タッチアンドゴー

交りては水面かすめる燕かな

斑鳩の里は溜め池が多い。

カイツブリやカワウは常連として、いまは燕が水面に落ちた虫を拾うのか、盛んにタッチアンドゴーを繰り返している。
なかには、目の前で交尾などするものもいて、その後はまた水面めがけてはダイブとなんともせわしい。
彼らにはちょっと遅い春のようだが、すでに一度子を孵して巣立ちさせた早熟のカップルかも知れず、そうなるともう立派な夏燕である。

マイナスイオン

水分りの奥社はつかの河鹿かな
十尋の滝まっしぐら岩洗ふ
万緑や千年杉の神さびて

東吉野村の白馬水分神社奥に「投石(なげし)の滝」がある。

東吉野村・投石の滝

高さはおよそ20メートル弱といったところか。すぐそばまで行けるので、滝口から一気に滝壺に落ちてくるさまをあおぎみることができる。滝壺には樹齢千年の神杉が周囲の青葉若葉をしたがえてそびえている。
滝壺から流れる清流のどこかでは、河鹿がいるらしく鳥の囀りに混じってかすかにコロコロと鳴くのが聞こえてくる。

あふれるマイナスイオンを胸一杯吸い込んだせいか、頭もすっきり。これでいい句が授かれば言うことなしなんだが。

新樹光を浴ぶ

滝口の上の青空大いなる

今日は東吉野への吟行。

天気はまたとない5月の天気。
20メートルほどの高さから一本となって滝が落ちてくる。滝壺の上空は空がぬけて雲一つない真っ青な青空が透けて見える。水流は豊かで清らか、河鹿もときどき聞こえてきて吉野川源流は新樹の光に満ちていた。