災害の記憶

堰堤の耐へて出水を免るる
冠水の標に出水の歴史知る
この町の出水の証冠水線

昨夜から昼にかけてずいぶん降った。

奈良盆地にこれだけの雨を降らすのは久しぶりだ。
盆地のあらゆる支流の雨水を集める大和川はかつて氾濫しやすい川だったが、長年にわたる護岸工事などで最近は被害も少なくなった。
ただ、全国何処でも同じだろうが、コンクリートで固めたため雨水は地中に染みこまず、降ればすぐに川の水位を押し上げる怖さがある。いったん雨水を逃がすクッションの役割をになう堰堤などがあると大きな被害を防ぐ効果はあるが、最近の雨の降りようは尋常ではなく、想定レベルを超えて大災害につながりかねない例を毎年のように見る。

今日の雨は何とか耐えたが、大和川は恐ろしいまでの増水であった。
大合流して一本の川となるあたりでは、30年ほど前に大洪水の被害に遭っている。その時の水位を標識にきざんでいるのも、災害の記憶を風化させないためのものであろう。

名花の小道具

花の綿そよいで合歓の風を呼ぶ
合歓の花蘇州夜曲の羽扇

合歓の花もそろそろ終わるかという頃である。

森の中の合歓の花

あの特徴ある花を近くでのぞいてみた。まるで宝塚のダンサーの髪飾りのようでもあり、懐かしくもあの李香蘭が歌い出しにスポットライトがあたった扇から顔をのぞかせるという、演出効果たっぷりの小道具としての羽扇のようにも見える。なんとも優美でいて派手でもある花である。

歌手としてよりも議員としての活動の方がおそらく長いが、やはり山口淑子ではなく李香蘭のほうが印象に強い。

夏の準備

どくだみに植え込みの隙つかれたる

今日は初夏の陽気。

気温こそ30度近くにまでのぼったが、空気が乾燥していて気持ちがいいので、久しぶりに馬見丘陵を歩くことにした。
墳丘の杭に張られたロープに子燕が並んで親の給餌を待つ光景や、もうしっかり大きくなった橡の実を見ることができたし、木槿、桔梗や女郎花の黄色い花がもう咲き始めているのも発見した。
先日まで花菖蒲、紫陽花の公園だったのに季節はみるみるその景色を変えてゆく。
花壇では八月に咲かせる花の植栽、そして水やりが行われ、夏本番に向けた作業が急ピッチである。

暑さにバテないよう、しっかり汗をかける体を作らなければいけないと思った。

繕う

とろ舟の余り苗曳く田守かな

植えた苗がうまく根付いているかどうか調べているようだ。

紐の付いたとろ舟に余り苗を乗せ、田の泥の中を曳いている。機械ではうまく植えられなかったり、生育が思わしくないところを植え足しているのであろうか。

住めば都か

別荘地終の栖に薔薇の垣

こんな山奥に人が住むのかというような場所にその別荘地は開けていた。

別荘は大半が閉ざされているが、中にはどうやら定住していると思われる人たちもいるようだ。
先日吟行した室生・深野地区は三重県名張市と接する境にあり、一帯は日本の里百選(朝日新聞)にも選ばれているが、別荘地はそこからさらに山を登って一段と高いところにある。別荘地の名前も「峠」というくらいである。
しかも、町からは相当離れているし、交通の便だって車だけが頼りだが、その道路ときたら狭いうえに峠をいくつも越えていかなければならない。別荘地と言えば那須、清里高原、伊豆高原など観光名所としても名高いイメージがあるが、ここはおよそそのような華やかさからはかけ離れている。

長い期間都会生活に馴染んできたので当地でさえ不便この上ないが、日常の買い物や医療など、このような山に移り住む生活というのはとても我慢できそうもないように思われてくる。

そういう土地でも大変気に入って住んでおられるようで、周りをきれいに掃除され、庭の手入れも行き届いている家が見られた。四季咲きだと思うが、丹精込められたのであろういっぱいの薔薇がフェンスに沿って咲き、広い庭には菜園だろうかご夫婦が精を出して作業しておられる光景が目についた。

熊の好きな実

花房の小さきは山の栗にして

栽培用の栗の花はたいそう立派な花房をつけるものだ。

それに対し、山の雑木に混じって咲いている栗の花がずいぶん小ぶりなのには驚いた。
おそらく実だって丹波栗のような立派なものではなくごく可愛いサイズにしか育たないのではないか。
深い山で熊とか猿などが好んで食べるという山栗の仲間なんだろうと思った。

昼寝を邪魔する

散々に猫いたぶりて夏の蝶

家猫どもの大騒動である。

暑くなったので窓を開け放つ機会が増え、それにつれ猫どもも庭に近くて風の通りがいいところがお気に入りのようである。
昼寝をしているかと思うと、急に起き上がっては視線を右往左往させているのは蝶が舞い込んできたときだ。とりわけ、揚羽蝶のように大型でゆっくり翔ぶのが来ているときは、目が輝いてきて声まであげている。
蝶が窓をかすめようものなら大変である。今にも飛びかからんとするので、網戸が破れてしまうんではないかとハラハラさせられてしまう。
いっとき猫たちを興奮させた蝶が飛び去っていくと、いつのまにか元の場所で昼寝(仮眠?)している兄弟たちである。