恋猫の深傷舐めてこともなげ
恋猫の傷に見合ひしもの得しや
恋猫の深手と見ゆる傷なめる
恋猫の傷の意外に深手なる
恋猫の深手ものかは出撃す
季題は「恋の猫」。
「恋猫」は傍題であるが、「うかれ猫」「春の猫」「孕猫」「猫の恋」「猫の妻」など他にも多い。
今でこそ野良猫や放し飼いの猫は嫌われるが、かつてはどこの町にもいて春や秋ともなると悩ましい鳴き声や争いの声に眠りを妨げられたものである。
なかには深手ものかは傷を丹念に舐めてはまた伴侶を求めて彷徨するものもいて、なんとなくライオンの雄とおなじく哀愁を帯びた野生を感じたものである。
昔普段おとなしいトラ猫を飼っていたことがある。彼がある日突然姿をくらまし、家族をずいぶん心配させたが3,4日して憔悴しきった姿でもどってきたことがあった。その後去勢手術を施したのだが、さて彼の恋は成就したのかどうかそれは分からないが、一度きりの青春であったことは間違いない。
