筒井筒

肩過ぐる丈にひとむら薄生ゆ

今日も在原神社の話。

この神社の「ひとむら薄」とは謡曲「井筒」の地謡、

名ばかりハ
在原寺の跡古りて 在原寺の跡古りて
松も老いたる塚の草
これこそそれよ亡き跡の
一叢ずゝきの穂に出づるハ
いつの名殘なるらん
草茫々として露深々と古塚乃
まことなるかないにしへの
跡なつかしき氣色かな 跡なつかしき氣色かな

に謡われる「一叢ずすき」からとられたもので、業平の魂があらわれたものだと解釈されるが、いっぽうでこの節からは相当以前からこの寺が荒れていたことが想像できる。

実際今植えられている薄は背が高く、まるで葦にまがえるほどだが、正真正銘薄でこの時期ようよう穂を出しはじめていた。
句意は全くの言葉遊びで、

筒井筒井筒にかけしまろが丈過ぎにけらしな妹見ざるまに
くらべこし振り分け髪も肩過ぎぬ君ならずしてたれか上ぐべき

をもじったにすぎないのであるが。

したたかに

ひとむらの竹をよるべの秋蚊とも

デング熱とかいう蚊を媒体にした伝染病が騒がれている。

蚊−>人−>蚊−>人。。。どっちが元の宿り主なのか、鶏か卵かどっちみたいな話でよく分からぬが、こうしたウィルスは人が世界各地を行き交う時代ともなれば、どこにでも伝播してしまうものなんだろう。

吟行などで竹や木が茂ってるような所など、今の時期はまだまだ蚊が多くいる。歳時記では「秋の蚊」を辛うじて秋まで生き残った弱々しい蚊を言うのだが、温暖化のせいか9月といっても気温が高い日がつづくので、どうしてどうして最近の蚊は大変元気なのである。
そのあたりを詠むのも句にはなるけれども、これからは辺鄙な場所だからといって安心はしていられない。吟行といえども、虫対策はしっかりしておかねばならない。

明後日は俳句会本部主催の明日香村吟行。大変広い場所を2時間弱くらい歩き回って七句出句というのは結構きついものだが、蚊に遭遇したならば「秋の蚊」に詠み込むくらいしたたかに参らねばとてもものにはできないと思うのであるが。

在原寺跡

露けしや歌仙とぶらふ寺の句碑

一叢芒を見ようと天理市石上櫟本町にある在原神社(在原寺跡)を目指した。

在原神社を示す立札

現在は神社になっているが、明治初年頃までは在原寺だったという。ここでも明治の愚策、廃仏毀釈があって本堂、庫裡などは市内の別の寺に移築されたという。創建は9世紀、業平の死後その邸(別邸?)跡に建てられたとされる。

ナビにもないので、道行く人に尋ねたりしてようやく天理IC脇にその跡を探し当てた。
折から雷が鳴り出し、大粒の雨も降ってきて長居はできなかったが、ひとあたり見てくるにも十分すぎるほど狭くて、寺の跡というよりは小さな公園といった風情である。

謡曲「井筒」の舞台でもあり、伊勢物語「筒井筒」に因むという説もある井戸や、一叢芒、夫婦竹(業平竹)もそれらしくしつらえられているのが興味深い。
在原神社の筒井筒
在原神社の一叢芒
在原神社の夫婦竹

ただ、?と思ったのが芭蕉の句碑で、

うぐいすを魂にねむるか矯柳

鶯を魂にねむるか矯柳

調べてもこの句と在原神社との関わりは分からなかった。
逆に歌碑のひとつもないのが言いようもなく悲しいのであった。

乱れる本性

白萩のくくりもせざる乱れかな

庭の萩が咲き始めた。

芽吹いた後相当すかし剪定したのだが、それでも大きな株に育ってしまって周囲の草木を圧倒しそうなほどになっている。
括ってしまっては味気もなくなるのでそのままにしてあるが、それにしても萩には「乱れる」という言葉がよく似合う。

丈六仏

聖代の丈六なれや古都の秋

奈良博物館「国宝 醍醐寺のすべて 〜密教のほとけと聖教〜」へ行ってきた。

暑い間は外出がどうにもおっくうだが、今日のような清々しい秋日和に奈良公園をゆっくり歩くのはとても気持ちいい。
木のかげもたっぷりあるので、暑くなると木陰に入ればたちまち汗もひくようで、いよいよ古都の観光シーズンが到来したようだ。

醍醐寺と言えば秀吉の大茶会花見がすぐに浮かぶが、吉野や大峰の山岳修行とも結びついた密教のお寺としても有名だし、何より文書の管理が素晴らしく数万点が国宝に指定されている。奈良街道にも面し、南都の寺とは往来があったようで、東大寺再建にあずかった重源、西大寺中興の叡尊なども醍醐寺とはゆかりが深い。
今回はそんなご縁から醍醐のお山を降りてこられた阿弥陀仏、薬師三尊など貴重な国宝、重文の数々が奈良でも公開されることになったので、これを見逃すわけにはいかない。

快慶の手になる後白河法皇追善といわれる弥勒坐像菩薩もこれでもかというくらい精緻で見ごたえもあるが、平安期の作と思われる大講堂本尊の阿弥陀如来座像がいかにもほとけ様という体の飾り気もなくすばらしい。座像であるが立てばその倍の一丈六尺(4.8メートル)といわれる丈六仏である。これを超えるものがいわゆる大仏と言われる。
なお、薬師堂本尊の薬師如来坐像は半丈六。丈六仏の半分の高さで、座っておられるから実寸はその四分の一で1.2メートルの高さと言うことになる。

名月祭

明月祭湯立て神事の釜ふりて

近所の八幡(秋留八幡神社)さんの珍しい明月祭の神事に招かれた。

秋留神社明月祭の湯立て神事
湯立て神事の神楽

1月の鬼打式という珍しい神事の写真を撮ったものを幾枚か差し上げて以来、神社の行事の案内をいただいていて、今回も名月祭にあたり巫女さんがお釜の湯に笹をひたし、実りに感謝したり参拝者の健康をいのるというお釜神事、神楽の舞いがあるというのでお声をかけていただいた。
使われているお釜にはヒビがはいって相当年代を感じさせたので、よく見てみると嘉永年間のものだった。

四方の神笹に憑らしめ名月祭

巫女さんの祝詞を聞いていると、東は伊勢神宮、南は談山神社、西は住吉さん、北は春日の神を憑代にお呼びして行事が始まる。

明日は明月

ひさかたの風の待宵一入に

長雨が一服。

昼頃からは晴れ間がでてきて、そのまま夜は涼しい風が吹いている。虫の声も一段と賑やかで家の周りじゅうから聞こえてくる。
まさに名前にふさわしい素晴らしい今年一番の秋の夜だ。