とち餅食いたい

橡の実を妻に見せんと保ち来たり

木の実はもう随分落ちている。

紅葉同然にいつもより早いのではないだろうか。
平地では橡の実などなかなか目にする機会がないのだが、よく散歩に行く馬見丘陵公園には正門から入ってすぐのところに見上げるような橡の木がある。ずっと上の方に実をつけていたので実のなる頃を楽しみにしていたのに、昨日はただの一個も見つからない。もう落ちてしまって誰かが拾ってゆかれたのかもしれない。
そんなことを考えていたら、本物ではないけど仲間の紅花橡の木もあったことを思い出したので、そちらに向かうとはたしてわずかばかり枝に残っているのがある。何とか背がとどきそうなので飛びついてみたら、もう落ちる寸前だったとみえ、うまいぐあいに拾うことができた。大きさは本物の半分もないくらいだが、十分に橡の実の貫禄をみせている。

夫婦そろってとち餅が大好きなので、話のネタにと持ち帰ることにした。

堅そうに見えて、意外に殻が柔らかいようで指でも厚い殻が簡単に割れる。中からは団栗そっくりの形をしたかわいいのが出てきたのも意外だった。

柿紅葉

柿の実のひとつとてなき裏の年

ここまで徹底しているのは珍しいのではないか。

裏年の柿の紅葉

柿のよく成るとあまり成らない年のことだが、どうやらあまりならない木だと思ってよく見ると、実は一個も成ってないのだった。
その成ってないのがもう既に一部は落葉すら始まっているようで、今年の紅葉は随分早いようである。そう言えば,街路樹などのハナミズキは真っ赤で、紅葉も随分進んでいるようだ。

要らぬ心配

宿りせる主の知るや思ひ草

「思い草」とは南蛮煙管の古名だそうである。

南蛮煙管の花

万葉集にも一首詠まれていて、「秘する思い」というニュアンスを持つようである。薄などに寄生する、いわば宿り草である。
先週訪問した白毫寺で初めて目にすることができた。
見ると、たしかに煙管のようなラッパ管の花である。薄の根元にびっしりと咲いていて、宿主は否応なく栄養分が吸い取られるだろうに大丈夫なのかしらんと余計な心配もする。

「秋簾」再び

看取りする氣配はつかに秋簾
秋簾篤き病に辺せる
秋簾妣くさぐさの昔語り

所属結社12月号分提出の兼題句である。

主宰以外の選を受ける部門で、該当月担当の選者によって当然ながら傾向があるわけだが、基本はいいものはいいということだろうからあまり気にしないで出句している。
だが、月によっては苦手な兼題もあって、今月ももう一つ「野分」があってどうしてもできないので「秋簾」だけですますことになった。
ちょっと固い表現で、独りよがりなきらいなきにしもあらず、といったところか。

二上の夕陽

落日や秋分の日の横大路
秋分の入り日真向かふ横大路

横大路というのは藤原京と難波京を結ぶ官道である。

今は国道166号として立派な道路が東西にまっすぐ延びる。
この時期の夕方、飛鳥や桜井から帰ってくるとき太陽がどこまで行っても真正面に見えるので眩しいこと限りない。詳しい統計は知らないが、交通事故だって多少は多いのではないだろうか。

ただ、空気がすんだ日は二上に沈まんとする光景はなかなかのもので、車を停めてしばらくは眺めていたくなるほどだ。

群生

大和川なぞへ粧ふ曼珠沙華

法面に目がいった。

曼珠沙華というのは多年草で、根茎がしっかりと根をおろすので固まって咲く習性がある。この一叢も俳句の題材になるのだが、今日目撃したのはそれこそ法面一面がびっしりと赤に彩られたもので、群生、群落といってもいいくらいである。
この程度の句しかできないのも情けないが、時間をかけて推敲してみる価値はありそうだった。

白毫寺 その2

破れ塀をいたわるごとく萩の叢
山門を拝してよりの萩の磴
巷間のちまた一望萩の磴
相寄りて磴をせばめる萩の叢
裾触るるばかりに萩の相寄りて
登るにつけ下るにつけて萩の寺
白萩の土になれそむ零れかな
破塀をつつみかくせる萩の寺
裾濡れずしてゆきがたき萩の道
萩の蹬たどらばおのず相寄れる
萩の蹬おのずと寄れる二人かな

さすが萩の寺である。

白毫寺の破れ塀

今年は夏の気候が悪かったせいかことのほかできはよくないと受付の女性はこぼしていたが、それでも今日あたりが花盛りだというタイミングで見事なものだ。
特に山門をくぐり境内に上がる石段の両脇には、競うかに紅白の萩がこぼれていて、階段の幅は5メートルほどだろうか、その半ばを覆うようにしてしなだれているのだ。

白毫寺の石段と萩

今は萩が大人気で人の目は萩に吸い寄せられているが、花の寺といわれるだけあってほかにも秋の草花がひっそりと咲いているところもある。

きちかうも花の御寺の名に恥じず
柴垣も杉戸も鎖して秋の草
椿の実割れて落つるも残るのも
落ちるもの割れたるものも椿の実
参道は一本花の曼珠沙華

明日が句会なので今日はいっぱい作らなきゃ。萩で勝負だ。