春陰のなほもて深き下葉かな
コントラストが深い。
この季節は新緑と深緑の落差が大きいのが魅力で、どちらかというと人は新緑、若葉のほうに目が向きがちだ。
しかし、今日のようなどんよりとして今にも雨が来そうな一日ともなると、その深い緑があやなす陰影こそきわだって美しく見えることがある。
たとえば、半日陰がいいとされる紫陽花も芽吹きはとうに終えて新しい葉を展開中だが、それが大きな樹の蔭にあると深緑の存在として訴えてくるものがある。
西洋化によって日本文化の「陰翳」という美意識が失われつつあるのを嘆いたのは谷崎であるが、自然にはまだまだ健在の美しさが残されており、それをまたしばらく眺めて至福の時間が流れることを再認識した日である。