親の心子知らず

蔓ばかり伸びる胡瓜をなんとしよう

耕さず、肥料もやらず。

外からできるだけ余計なものは持ち込みたくないから、雑草除けのビニールマルチなどもってのほかで畝にはせっせと刈りとった草を敷く。これがやがて枯れ肥やし代わりにもなるし、動物性堆肥など使いたくないから一石二鳥である。
ただ、土が浄化されるまでに時間がかかり、どこまで辛抱できるかがカギを握る。
胡瓜も肥料が少ないから葉の緑も薄く、周りの色濃くてりゅうりゅうとした胡瓜たちと比べるとずいぶん見劣りがする。ただ、肥料で無理矢理大きくしたものでなく、胡瓜自体が環境に合わせて育つので収穫した胡瓜の味は特別である。
いくつも実をつけることなく、あっという間にネットのてっぺんまで達してしまった胡瓜だが、この胡瓜はまだ体を成長させようとしているようで、まだまだ子孫を残す必要はないと判断しているようである。胡瓜の好きなように健康的に育ってくれるのはうれしいが、菜園主としては困ったものである。

海月もどき

ペットボトルぺこぺこ鳴つて麦茶干す

麦茶をよく飲む。

毎日二リットルくらい飲んでるのではないだろうか。
外へ出るときは携帯用に500ミリリットルほどの小さなボトルに詰め替えるが、これがはなはだ心もとない。少し握るだけでぺこぺこへっこんだり、残り少なくなるともうちゃんとした形を保つのが難しい。まるでとらえどころのない海月のようである。どこのメーカーもコスト削減競争に邁進して、骨のあるボトルと言えば炭酸飲料くらいか。
炭酸物は飲まないので薄いボトルだけがたまってゆく。

祝杯

下戸とても父の日なればワングラス

母の日に比べれば影の薄い父の日である。

それを、自宅焼き肉で祝ってくれた家人に感謝。
昼間は土に這いつくばって汗を流したこともあって、冷たいビールをいっぱいいきたいところ。飲むと疲れることもあってここ十年ほどはほとんどノンアルコールで通している。冷たい缶をあけると、いっぱしの音をたてて泡があふれ、しかも味わいは本物のビールに負けない苦みもあってけっこういけるのである。
もし、普通のビールを飲んでいたらこの記事はとても生まれなかっただろう。

第二弾

甘藷植ゑて雨の便りを待ちにけり

サツモイモの苗が高い。二十本千円くらいする。

二種類を育てたいのでこれはふところに響く。
そこで自前で苗作りを試みてみたのだが、これがまたなかなか難しい。第一に時間がかかりすぎる。冬の間に芽を出した藷を春先から初夏まで辛抱強く具合のいい長さに育てるまでが四〜五ヶ月。そのうえ、サツマイモは高温が大好きときているから素人菜園で環境を整えるのが一苦労である。
とりあえず、必要な長さに足りるまで成長できないまま第一弾として植えることにした。根づいてある程度つるが伸びてきたら必要な数だけさらにつるを切り取って第二弾ともくろんでいたのだが、これもなかなか思惑通りにはいかないものである。できるなら今月中には済ませたいのだが間に合いそうもない。
結局、不足分を買うことになって今日挿してみたのだが、約四ヶ月、秋の収穫まで厳しい熱さを乗りきらねばならず心配の種は尽きそうにない。

熱波

風薫る坂をきゅきゅきゅとあんよ鳴る

手を引かれた幼児が坂を登ってくる。

よちよちするたびに靴がきゅっきゅっと鳴って、その覚束ない足元がかわいらしいので目を細めて見送る時間が長い。
今日は30度をはるかにこえて真夏日、しかも風も弱かったので日中の外は熱波で危険なほどである。夕方になっていくらか風も出てきたようなので幼児にもいくらか安心できそう。
外はいくらか過ごしやすくなったが、室内は昼間の熱がこもってさすがに扇風機だけではつらい。
冷房機に今年初めてのスウィッチが入った。

寸鉄

子蟷螂糸さながらの五体振る

すでに立派な蟷螂の形である。

おそらく生まれて間もないはずだが、あたりを見回すような警戒のそぶりが見てとれる。
体長はまだ一センチたらず。一寸法師ならぬ三分蟷螂だが鎌はすでに備えており寸鉄人を刺すがごとき不適な面構えが頼もしい。
緑がぐんぐん伸びるこの時期は湧いてくる季節。新芽や葉を食い荒らしたり、果実を吸ったり、いわゆる害虫もいっぱい出てくるので、これらを食ってくれる蟷螂はありがたい存在。
「頼むよ」と声を掛けて無事な成長を願った。

青春謳歌

人参の咲いてあてなる虫寄り来

ここ数年全国で爆発的に増えているというカメムシ。

種類だけでも1000を数えるというから、形や色、大きさなどもまちまちでカメムシと聞いて思い浮かべる虫の姿は人によっておおいに異なるかもしれない。
よく見られるのがマルカメムシ、名の通り全体にまるく大きさは六、七ミリほどだろうか。ついで、クサギカメムシ。こいつはマルカメムシより大きくて一センチほど、亀甲形をしている。同じような形でも全体に緑がかったのもいて、これら亀甲形がとくに農作物の汁を吸ったりして病気をもたらす厄介者である。匂いも頭が痛くなるような刺激があるので、洗濯物について室内に入り込もうものなら大変な騒ぎになるのはご承知の通り。
前にも書いたが、種取のための人参の花にくるのはアカスジカメムシ。名前とは逆に小豆色の体に黒のストライプ。なかなかお洒落である。これはセリ科が大好きだという。この時期はかれらの交尾期と重なっているようで、真っ白な毬のような花の上で何組ものカップルが青春を謳歌しているところである。
7月には白い花が焦げ茶色に変わって種が穫れるので、そのまま畑に蒔けばほぼ百パーセント発芽する。これは発芽さえすれば半分はできたと同じと言われる市販の種に比べれば驚異的な成果で、菜園仲間にもどんどんお裾分けして喜ばれている。